「こんな夜更けにバナナかよ」から8年半になるそうだ。著者自身、本書を第2の処女作と位置づける力作。
北海道の無人駅をきっかけとして、その周辺の地域の実際とそこに暮らす「人」を描く。綿密な取材と著者の人柄がにじみ出る文章で、説得力がある。
- 「駅の秘境」で両足のない漁師はいかに生きたか。(小幌駅)
- 「タンチョウは守れ、シカは殺せという」矛盾した施策から探る「自然保護」の本質とは。(茅沼駅)
- 日本一の米どころになった北海道の「普通の農家」の直面する現実から、日本の食と農のいまを問う。(新十津川駅)
- 「流氷」からたどる北海道観光の歴史。カニ族、ディスカバー・ジャパン…(北浜駅)
- 消えたニシンの夢の跡、キネマが愛した「過去のまち」。(増毛駅)
- 「陸の孤島」に、人々はどう暮らし、なぜ暮らすのか。(増毛駅)
- 消えた集落にポツンとある駅から「平成の大合併」とは何だったのかを問う。(奥白滝信号場)
著者公式HP
読売書評
日経(梯久美子)書評
(追記)
サントリー学芸賞受賞→第34回 サントリー学芸賞決定 2012.11.13 ニュースリリース サントリー
袴田茂樹の選評の中から、苦言を呈している部分を以下に引用。的確な指摘だと思う。本書ではそんなに鼻につく感じはしなかったけれど、定形論、一般論に堕したノンフィクションは数多いように思う。
個別のミクロ世界も、確かな眼で穿つと、自ずと普遍の世界につながる。しかし、意識的に普遍化しようと安易に理屈や論に走ると、一挙に生彩を欠く。本書でも、本来の手作り的な「有機農業」と北海道の「クリーン農業」の違いに関連して、農業指導員の苦労話などを具体的に語るのは面白い。しかし、その先に進んで著者の農業政策論、TPP論などに及ぶと、たちまち平板な紋切り論になり個性が消える。町村合併の話についても、住民投票論から「そもそも民主主義とは」といった政治論に進み、合併は「国の政策誘導に乗せられた」などと論じているが、これもまたありふれた定型論だ。政策論、政治論に走った章では、人々の生活や心を見る眼も格段に粗になっている。理論で勝負するというなら別だが、宮本常一が一般化を敢えて禁欲した意味を著者はしっかり噛みしめて欲しい。これは、著者の今後の成否を左右する問題である。一般受けする紋切り論、定型論でポピュラーになって欲しくないが故の注文だ。
- 作者: 渡辺一史,並木博夫
- 出版社/メーカー: 北海道新聞社
- 発売日: 2011/11
- メディア: 単行本
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