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読書備忘録です。

イラク水滸伝/高野秀行

世界古代文明(シュメール)揺籃の地にほど近いチグリス川とユーフラテス川の合流する辺りは、アフワールと呼ばれる広大な湿地帯になっていて、騒乱のたびに人々が逃げ込むアジールでもある。今でも政府勢力の影響力が及びにくく、情報も少ない謎の地域で、安全とは言い難い。そこで、少しでも安全に探検をしようと、著者は現地で伝統的な船タラーデを作って湿地を行くことにする。舟を作っているという古代宗教マンダ教を信仰する被差別民もそこに逃げ込んだと考えられている人々だが、アフワールの中核には水牛を買って暮らすマアダンという人々が暮らしている(マアダンとは体制と戦うレジスタンスも意味するという。)。社会は氏族、宗教によりモザイクのように分断されていて、その文化、習俗もさまざま。例えば、アザールというイスラムの意匠と一線を画す図案のラグは、ユダヤによるものとも、古代シュメールを起源とするとも考えられるというのだが、あらゆる精神的、文化的要素を取り込んで成立しており、まさにアフワールを象徴するものだと。