HONMEMO

読書備忘録です。

黒い海/伊澤理江

2008年、17人が死亡した漁船の海難事故の原因を追うノンフィクション。

現在原発処理水問題の渦中にある福島県漁連会長の会社の漁船が犬吠埼沖で沈没。その原因は波とされたが、油が大量に流失していたという生存者の証言は運輸安全委員会の報告書と大きく食い違う。

多くの関係者、専門家に取材するうち、原因は波ではなく、潜水艦ではないか?という疑いを強めていく。

当初、運輸安全委員会が潜水調査を拒否、強引に原因は波との結論ありきで幕引きを図ったように見えたことから、同委員会の原因隠蔽も疑ったが、取材を進めるうち、積極的隠蔽というよりは怠慢によるものではないかという考え方に傾く。実際、当時の自衛隊潜水艦隊司令官の証言からも、潜水艦隊事故自体の隠蔽はありえなさそうに思える。あるとすれば…と、著者はなおも情報公開請求を続けている。

福島県漁連会長野崎は、3年後の震災で更に船を失うという苦難の連続の中で、復興、処理水問題対応にも追われる。本論ではないが、処理水問題の解決に全く耳を貸さない頑固者という勝手なイメージはちょっと違うようだ。

ノンフィクションのお手本のような文体、構成で、大宅壮一ノンフィクション賞をとってもおかしくないと思ったら、受賞していたのか。