HONMEMO

読書備忘録です。

木琴デイズ/通崎睦美

平岡養一は、明治40年、実業家の長男として生まれ、音大でなく、慶應で学び、木琴の黄金時代を迎えつつあった米国で活躍、日米交換船で帰国後、日本における木琴時代(デイズ)を牽引、国民的音楽家となった。戦後再び米国へ渡るも、その頃からマリンバの人気が木琴に取って代わるようにようになるが、ライバル朝吹英一(朝吹真理子の遠縁)がマリンバも演奏するのに対し、平岡は木琴一筋に生きる。

戦時中は、少なからず、山田耕作と行動をともにするが、平岡は、音楽で国家に挺身するのではなく、「音楽挺身隊」というその文字のとおり、戦時下においても音楽そのものに挺身していた、というのが著者による評である。

著者はマリンバ奏者で平岡の使った木琴を譲り受けたことから、本書を書くに至る。平岡の評伝ではあるが、これにとどまらず、木琴演奏の消長、楽器としての木琴の歴史やマリンバとの違い、平岡の奏法についての解説など興味深く読めるが、音楽に造詣の深い向きにはより楽しめるであろう。私には、木琴で国民的音楽家と評される人がいたというのが、そもそも驚きだった。

サントリー学芸賞吉田秀和賞受賞