HONMEMO

読書備忘録です。

世界の食卓から社会が見える/岡根谷実里

世界各地の家庭に滞在して一緒に料理し、料理から見える社会や暮らしを伝える「世界の台所探検家」。

決めつけない、しなやかな考え方が、好ましい。

伝統食が政治や企業活動によって作られたイメージであることがよくある(ブルガリアヨーグルト)

安全性、文化的アイデンティティと農業の現実のバランスの難しさ(メキシコ遺伝子組み換えとうもろこし)

技能実習制度の構造的問題(仏教会に身を寄せるベトナム技能実習生の精進料理)

宗教と食戒律ー宗教をはじめ多様な食の選択を真に理解することは、この世界をより深く理解することにつながる。

需要が拡大するアボカドは麻薬カルテルの資金源に。また、水を大量に消費する。大豆の需要拡大はアマゾンの森林伐採につながり、牛乳の代替となるアーモンドミルクは、地下水汲み上げで地盤沈下をもたらす。環境、健康、動物倫理の観点から良かれと思った選択が良くない結果をもたらすことがある。食の社会課題に万能薬はないけれど、食べるものの先への想像力を持っていたい。

サバなど水産物資源管理は、欧米と日本などで異なるが、欧米の考え方をそのまま押し付ければいいというものでもない。

代替肉はなぜ肉に似せるのか。これまでの食べる楽しみを諦めずに菜食に移行するための移行食。

配給の残るキューバ式オーガニックと資源大量投入型中国式農業。どちらの社会で生きたいか。環境と経済と人の生活と、すべてを満たす農業の未来はどこにあるのか。

虫食というと貴重なタンパク源などと必要性ばかり注目されるが、お金のためとか季節の楽しみとか、食べること以外に目を向けると、虫食文化が少し違って見えるのではないか。

鶏卵生産とアニマルウェルフェア。卵に3倍のお金を払い続ける覚悟があるか、経済的に厳しい家の食卓に行き渡るようになるかと考えると頭の中がぐちゃぐちゃになる。

伝統行事月餅の贈答文化に伴う大量の食品ロス、過剰包装。伝統をどう進化させ、発展させるか。好ましい変化は受け入れられても、都合の悪いことは伝統にしがみつく。

日本の野菜は水っぽくて、味が薄い。手間をかけてくせをおいしく食べる野菜よりも、短時間でそこそこにおいしく食べられる味が薄い野菜を求める消費者の嗜好、社会の要請がそのような野菜を産んだ。功罪ともにあるが、人間の意志が作ったもの。