山崎豊子「不毛地帯」*1のモデル瀬島龍三のハーバード大学における講演録です。瀬島龍三は、陸大首席卒業という日本第一の秀才ですから*2、論理的で、良く整理された、大東亜戦争への経緯を理解するための教科書のような本だと思います*3それだけにあまり面白くはないともいえますが。
終章は、回顧よりの教訓と題され、7つの教訓が整理されています。
- 教訓1:賢明さを欠いた日本の大陸政策 「結果論として様々な事情があったにせよ日本の大陸政策はその限界、方法、節度のプロセスにおいて賢明でなかった」とされています。大陸政策の背景にある基本的な思想自体は歴史的に必然のやむを得ないものであったことを前提としつつ、その推進の仕方に誤りがあったということでしょう。
- 教訓2:早期終結を図れなかった支那事変 満州事変から支那事変への拡大を阻止し、満州国の育成に専念すべきであったとするものです。
満州の天地に建国の理想たる五族(満・蒙・漢・鮮・日)協和のいわゆる王道楽土が名実共に建設されるならば、それはわが大陸政策の成功であったでありましょう。また、東亜の安定にとって大きな貢献をしたであろう。満州建国には地理的、民族的、歴史的、思想的にその可能性があったと思われます。
歴史のifは繰り言にしかなりませんが、このifは私もときどき考えます。第2次大戦後植民地政策が世界で崩壊していくまでの東アジアはどうなっていただろうかと。植民地化された地域の人々の不幸に変わりはないかもしれませんけれども。
- 教訓3:時代に適応しなくなった旧憲法下の国家運営能力 行政と統帥を一括して統制する機構がなく*4、陸海軍、行政と統帥の不調和、計画の一貫性統一性の欠如、責任所在の不明確という事態を生んだ。
- 教訓4:軍事が政治に優先した国家体制 統帥権の独立と陸海軍大臣現役武官制のこと。
- 教訓5:国防方針の分裂 陸海軍のいかにも官僚主義的な対立
- 教訓6:的確さを欠いた戦局洞察 中国軍を過小評価し、ドイツ軍を過大評価したことなど。
- 教訓7:実現に至らなかった首脳会談 さらに首脳会談で打開を希求すべきであった。
- 作者: 瀬島龍三
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