地方と低所得者への雇用機会の提供を通じた再分配と減税による中所得者層への所得還付という土建国家モデル(稼ぎがセーフティネット)が破綻、セーフティネットが空洞化する中で、人とのつながりと山水の恵み、それを生かす手業・知恵が揃うことによって、安心を得ることができる。そのような場が山水郷。
山水郷は、天賦のベーシックインカムとして人々の生活を支えたが、近代になると都市への動員の場となり、その機能も低下していった。しかし、近年、山水郷が見直され、山水(自然資本)と人とのつながり(ソーシャルキャピタル=関係資本)をもとに、既存のシステムをアテにしない、自立した生き方を実現しようとする動きが見られるようになっている(多業、ローカルベンチャー)。
明治の近代化以来、個人の自由、自立が目指されたが、その理想を体現しているのは山水郷であり、そこに次の社会をつくる鍵がある。
人は自己を超えるものを引き受けて生きる時に生きがいを感じる。日本人は、先人達が作り上げた郷土を営々と引き受けてきたが、近代以後、国家や会社などを引き受け、国家や会社を足場、拠り所として生きるようになった。それが失われた中で、足場となるのが山水郷であり、山水郷での営みは郷土を引き受けて生きることである。
山水郷は天賦のベーシックインカムがある、世代を超えて持続させるために必要な仕事が沢山あり、多様な人に出番がある、自分の死後も長く続く存在である、といった点で、多様な人にとっての物心両面での足場となる存在である。
第四次産業革命との親和性も高い。新しい社会を作ることができる時代を迎える中で、山水郷が理想の実現に向けた試行錯誤の場となるとよい。
現実離れしているようで、実は必然の流れのような気もする。