この方の名前をどこかで聞いたことがあるなと思ったのは、超一流の免疫学者としてではなく、白洲正子との交遊の関係で、どこかで聞いた(読んだ)のでしょう。能にも造詣が深く、新作能を作ったりされているそうです。そういう知の巨人が脳梗塞に倒れ、重度の障害を負います。著者は、障害を負った自分を寡黙なる巨人が再生したと評するのですが、突然の不自由とリハビリの困難とに直面した著者の自死を願うほどの絶望、とまどい、怒り、そして希望…氏の様々な思いが強く心に響いてきます。
医療、とりわけリハビリ医療の現状を強烈に批判されており、本書はそういう意味での現実の改革に対する力にもなるのでしょうが、本書が小林秀雄賞を受賞することとなったのは、そういう部分とは別のところにあるのだろうと思います。
蛇足:本書は、大きく2部に分かれ、第2部は、様々な雑誌等に書かれた小文をまとめたものですが、その一つ「中学生に教える命の大切さ」というのは、朝日新聞に掲載されたものを改題したものらしいのですが、これは内容からみて明らかに「中学生に教わる…」の誤りでしょう。編集者の怠慢と思われます(第7刷)。
- 作者: 多田富雄
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/07/26
- メディア: 単行本
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