宇沢弘文の評伝だが、その事績を詳細にたどることで、世界の経済学の潮流の盛衰記にもなっている。
著者には、宇沢とは思想的にも人間的にも対極と言ってよい竹中平蔵の評伝(大宅賞受賞)がある。
竹中が政権中枢に入ってその考え方で日本経済を動かす一方、宇沢は、水俣病、成田闘争に関わり、社会的共通資本の思想を構築していく。民主党政権ができた時に宇沢を担ぐ動きがあったようだが実現せず、宇沢は普天間移設問題やTPP参加表明などに失望、激怒する。宇沢の思想は民主党が乗れるものではなかったということだが、昨今、格差拡大がいよいよ進む中で、社会的共通資本の思想についての理解、共感が進んできているように感じられる。やっと時代が追いついてきつつあるのだろうか。