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読書備忘録です。

いつか王子駅で/堀江敏幸

この作者の本ははじめて読む。龍の刺青をしている印鑑職人の失踪ではじまり、なんとその話は収拾されずに、大家の娘の咲ちゃんが200メートル走を一所懸命走っている(競馬馬のような・・・って扱いにもとれるのはひどいぢゃないか)ところで終わるのだけれど、咲ちゃんがとても可愛くて。これほど素敵な小説上の登場人物には久しぶりに出会った。咲ちゃんだけでなくてほかの登場人物もみんな好ましくて、清々しい。「トム木挽き」(!)とか安岡章太郎「サアカスの馬」を使ったエピソードとかもとても楽しい。
修飾語が沢山で、一文が長いというのは、普通は悪文の代名詞なのだろうけれど、この人の文章は、それを楽しむみたいなところがある。
解説は荒川洋治
この作者、次々読みたい。
(追記)
本書の成り立ちなどについての堀江敏幸による文章をみつけた(→新潮社「波」2001年6月号より)。雑誌が途中で潰れて連載も終わりってことのよう。印鑑職人の失踪がそのままになっていたり、なんだか中途半端感があるのはそのせいか…でも、このぷっつり感もまた味と言えば味かなとも思い。

いつか王子駅で (新潮文庫)

いつか王子駅で (新潮文庫)


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