昭和50年に日経に連載された私の履歴書に加筆したもの。履歴書にしては一風変わっていて、生い立ちなども書かれてはいるものの、ほとんどが芸術論です。短歌に飽き足らずに画の世界にはいったというのも肯なるかなというあじのある、また、まさにその絵画そのものと言ってよい骨太のエネルギッシュな文章です。
「形は形に非ず、これを形と云う。」
これが私の探求であった。
色彩だ、ヴァルールだ、抽象だ、具象だ、そんな事云って何になる。
そんなきたない画は美術とは云われない、と云う。
私はすでに美術など考えない。美術が物足りなくて美術を脱出したのである。
美しくて死んだ画。
人々は鯛を抱いている。鯛だ鯛だと珍重している。鯛がもう死にかかり、死んでいるのに、鯛だ鯛だと珍重している。
私の考える画家はまず生きて脈打っていなければならぬ。
行きたい、中川一政美術館
- 作者: 中川一政
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/02
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(手元のものは87年初版の旧版)