著者の文庫版あとがきによれば、高い評価を受けた本なのだそうなのだけれど、何だか中途半端な本だという感じが否めない。流言・投書という庶民の生の声が思ったより少なくて、戦争中の比較的常識的に知っているような出来事やら政府プロパガンダと事実との相違などについての記述が多く、欲求不満。学術の世界では庶民の意識みたいなものは取り上げられていないからこそ高い評価を受けたということかもしれないし、あるいは個人の多種多様な意識から、帰納的な作業で世相をみるということがなかなか難しいのかなとも思う。「特高月報」からの引用も当局による集約の部分ではなくて、もっと実際の声を整理して収録して欲しかった(整理してってのが難しいのだろうな)。
斎藤美奈子「戦下のレシピ」のような感じをなんとなく期待していたのに、その期待と違っていたということだけで、客観的にみれば立派な著作なのだろうとは思う。ただ、こういう分野はむしろ小説に力があるのかもしれない(最近読んだ本では井上ひさし「東京セブンローズ」とか)。小説は、抽象化して、比較対照、分析可能なものとするという点でそぐわないのだろうが。
講談社学術文庫ってのは久しぶりに買ったけど、高いなあ。しょっちゅう買うものでもないし、これはこの路線でいいと思うのだけれど・・・。
- 作者: 川島高峰
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/12/11
- メディア: 文庫
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