私には詩が分る素養がない。だから詩人のこともほとんど何も知らない。金子光晴で知っているのは「おっとせい」という一編の詩だけだ。
パリで貧窮生活を送る詩人のエッセイなのだが、詩人というものは経済力とか社会との適応みたいな所に重きを置かず、その日その日、やっと糊口を凌ぐような生活を送りながらも、その嗅覚や皮膚感覚などを研ぎ澄まそうとするものなのかなどと思う。言葉もない凄まじい記録であり、一文が長くて読みづらいと思う一方で、それが独特のリズムであるのだなとも思い、また、詩人らしいハッとさせられる表現が随所にみられるようにも思う。
「おっとせい」という詩は、「その息のくせえこと」というのが印象的で、最後のところがまた忘れられない。部分的に引いてもわからんというのもあるけれど、とりあえず、
だんだら縞のながい陰を曳き、みわたすかぎり頭をそろへて、拝礼してゐる奴らの群衆のなかで
侮蔑しきったそぶりで、ただひとり、 反対をむいてすましてるやつ。
おいら。
おっとせいのきらひなおっとせい。
だが、やっぱりおっとせいはおっとせいで
ただ「むかうむきになってるおっとせい。」
- 作者: 金子光晴
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