死ぬこと、殺すことをめぐって、
面白半分で私は人を殺し、そのあと銃をおいて、何のやましさもおぼえずに昼寝ができそうだ。たった100メートル離れただけでビールの缶でもあけるように私は引金がひけそうだ。それは人殺しではない。それはぜったい罪ではなく、罰もうけない。・・・(中略)・・・この道具は虚弱だ。殺人罪すら犯せぬ。
***
銃では人を殺したことにならぬという思考はたわむれに人を殺したがる自分におびえたための自己弁解ではないのか。・・・(中略)・・・ナイフか、ロープ。それなら人を殺すことの意味が全身で理解できるかもしれない。
***
銃でもナイフでもなく人は殺せた。私が寝るだけで二人の兵が死ぬ。
24時間を隔てて2度の銃殺刑を見て、
正確に24時間前、私は同じ場所にすわって震撼させられていた。指がふるえ、膝がふるえ、汗と悪寒に浸され、嘔気でむかむかしていた。この24時間の間に私は二度食事をし、一瓶のぶどう酒と幾杯かのウォッカを飲み、少し街を歩き、活字を読んだ。ただそれだけのことなのに何かがすっかり変わってしまった。呼吸正常、脈拍正常、眼は眺めている。耳は聞いている。何の動揺もない。・・・
前線に戻った「私」の従軍する部隊がベトコンに急襲されて、弾幕の中を潰走するラスト数十ページは圧巻だ。ずっしり重い、読み応えのある作品。
- 作者: 開高健
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1982/10/27
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