HONMEMO

読書備忘録です。

熊の敷石/堀江敏幸

先日読んだ「いつか王子駅で」がとても良かったので。これも素晴らしかった。
うごめく熊の絨毯の夢、目の見えない赤ん坊の目を塞がれた熊のぬいぐるみ、熊の敷石の寓話。「なんとなく」という感覚に基づく相互の理解があると思っていたユダヤ系の友人ヤンとの関係も、ヤンにとっての私は実は熊なのではないのかという想い。

実際には、互いに互いの見えない蝿を叩きあっているのではないか。投げるべきものを取りちがえているのではないか、と。敷石を投げたりしない熊とつき合えるのは、いま隣で読めるはずのない布製の絵本を撫でている、眼球のない天使だけだ。

遠くモン・サン・ミシェルを望む烈風吹きすさぶ断崖で、円盤投げのようにカマンベールを投げるというシーンとかもいい。
芥川賞受賞作の表題作のほか、掌編2篇。解説は川上弘美川上弘美の解説、書評は、うまいというか、性に合っているというか、そうなんですよ川上さん!と言いたくなるところがある。

熊の敷石 (講談社文庫)

熊の敷石 (講談社文庫)


520円@往来堂