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読書備忘録です。

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る/梅森直之

ベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」と言えばナショナリズム論の名著として名高く、比較的最近、その続編(?)が出て話題となっていた。興味はそそられても読むにはちょっと骨が折れそうな感じで躊躇していたので、とっつきにと思って手にとってみた(仲俣暁生が褒めてたし)。
で、第一部のアンダーソンの講義録の部分は、「想像の共同体」を読んでいることを前提として話されていることもあるのだろう、難解な言葉が使われているわけでもないのに、なんだかよく訳が分らなかったが、第二部の梅森直之によるいわばアンダーソンの解説編が大変分かりやすくて素晴らしい(それで一応「分かった気になってしまう」のも問題かもしれないが。)。以下ちょっと抜粋メモ。

「国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である」。これは(中略)「想像の共同体」の中の有名な一節だ。
(略)
こうしたアプローチ〔(文化的規定、歴史的規定、法律的規定など)「日本人(国民)」の実在を前提にしたうえで、その特徴をつかまえようとする(もの)〕は、あるものごとを、その決定的な特質(=本質)とされた一つないしは複数の要素に還元して説明しようとする点で、本質主義(essentialism)とよばれている。
これに対してアンダーソンのアプローチの特徴的な点は、そこに「心に描かれる(imagine)」という動詞が入っている点だ。つまりアンダーソンは、「日本人(国民)」をすでにあるなにものかとしてではなく、作られるなにものかとしてつかまえようとしていることになる。こうしたアプローチは一般的に、構築主義(constructionism)と呼ばれている。

アンダーソンは、このナショナリズムが作用する「舞台」を「世界」全体ととらえた。すなわち、彼は、個別的なナショナリズムの構造や特質についてではなく、むしろそれらの関係に着目することで、そこに作用する「力」の質と大きさをあきらかにしようと試みたのである。(略)日本思想史、アメリカ思想史、ロシア思想史、中国思想史……。こういった既存の学問分野に対し、グローバル思想史とも呼ぶべき新しい学問分野を切り開いたことが、「想像の共同体」というテクストの決定的新しさである。

いったいいままでどの研究者が、日本の歴史を、明示的に、タイやルーマニアとの比較において考えようとしてきただろう。(略)
日本の経験を西洋と対比させるだけでなく、アジアや東ヨーロッパなどとの共通性において考え直してみようよ。アンダーソンは、このように日本の研究者に呼びかけている。この意味において、「想像の共同体」は、こんにちにおいてもなお、きわめてユニークな日本研究であり続けている。
アンダーソンの研究の魅力は、つなげる力である。ロシアとイギリス。タイとルーマニア。彼は「日本人」の歴史的経験を、文化的にも空間的にも異なった場所で生きたこうした人々の経験と結び合わせていく。そこで作用していたナショナリズムという共通の力を認識することで、日本の諸経験を、世界で同時的に進行していた諸事件と相互に結び直すことが可能となっているのだ。
アンダーソンのテクストが僕たちに運ぶメッセージは、次のようなあたりまえの事実である。僕たちは、「日本人」の歴史を生きるわけではなく、世界の人々と同じ時代を生きているのだということ。そしてその「世界」には、西洋の人々だけでなく、アジアやアフリカ、東欧やラテンアメリカなどを含めた、文字通りの世界中のすべての人々が含まれなければならないということ。

アンダーソンの研究がそのような経済史的アプローチと異なる点は、かれがグローバル化を、カネやモノの動きとしてではなく、徹頭徹尾そこで生きるヒトの認識という次元からとらえようとしていることである。その際、とりわけアンダーソンが着目するのは、人と人との「つながり」をめぐる問題だ。(略)商業や貿易の次元ではなく、思想や理念のグローバル化に焦点をあわせて検討することが、アンダーソンのグローバル化研究の第二のポイントである。
こうした歴史の読み直しの結果、見えてきた一つの景色がある。それは、ナショナリズムグローバリズムが手に手を取って進んでゆく光景だ。
(略)
こうしたアンダーソンの見解は、ついさきほど検討したばかりの、グローバル化をめぐる二者択一のどちらとも、鋭く対立するものだ。僕たちは、常に問いかけられている。グローバルな経済競争と、閉ざされた人間のつながりと、あなたはいったいどちらを選ぶのかと。アンダーソンの研究は、この二者択一の問いかけそのものを、歴史の重みによって粉砕しようとするものだ。

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る (光文社新書)

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