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読書備忘録です。

「農業を株式会社化する」という無理/内田樹・藤山浩・宇根豊・平川克美

4人による農業論。

内田樹の文章が表題作。

- 「農業を営利事業にした場合には、確実にモノカルチャーになる。」というが、低コスト単一品種大量生産を狙う企業の一方で、少量高付加価値を狙う企業が、多様性のニーズに応えていくのではないか?

- グローバル経済化といっても幅があり、食料安全保障を確保する方策としては、農地転用規制や株式会社の土地所有規制などを講じる中で、株式会社の良いところを活かすやり方があるのではないか?

- 農業が成立するために不可欠な基盤整備、環境整備のコストを株式会社は負担しないというが、そもそも補助金でかなりの部分が賄われている上、CSRのような動きも盛ん、また、地域コミュニティの上に成り立つものであり、主体が株式会社か協同組合かなどによって異なるのか?

-そもそも、「農業を「営利」事業として語ることは適切でない。」というのでは、農業を家庭菜園程度のものと捉えるものとなり、これでは農「業」を語ることにならない。むしろ、営利事業として語ってこなかったことが農家の経済を苦しくし、農村の荒廃にもつながっているのではないか。

- 最後、地方に移住して株式会社を作って農業をしている若者を評価しているので、なんだか訳が分からなくなるのだが、要するに、株式会社化云々はどうでもよくて、農業の非経済的側面の重要性を説きつつ、反グローバリズム、定常化社会といった理念レベルにおける農業の親和性を述べたかったに過ぎないということか?

 

藤山浩は、田園回帰について。宇根豊は、農本主義(農業の本質、非経済的価値)について。平川克美は、定常化社会のあり方みたいな話。

 

共通する農業の非経済的価値の強調はいいのだけれど、大きく言えば定常化社会に対応するための経済政策の大転換を求めるものであり、具体に農業政策について言えば、直接所得補償(環境支払)に多額の税金を使うことに理解が得られるかという問題でもある。

 

内田センセは、対案を示せという批判に対して、私はちょっと立ち止まって考えたらどうかと言っているだけだと逃げる。価値観の大転換を求めるものだから、現実論としてはそこまでしか言えないということか。

 

「農業を株式会社化する」という無理 これからの農業論

「農業を株式会社化する」という無理 これからの農業論