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読書備忘録です。

人口減少社会のデザイン/広井良典

これからは、第3の定常化の時代であり、限りない拡大・成長とは異なる新たな社会、価値のありようを形成していくべきとして、時代認識、理念について検討するとともに、様々な方策を提示している。あとがきのまとめから、具体的方策に係る部分を要約、メモしておく。

1 将来世代への借金のツケ回しを早急に解消するため、消費税等をヨーロッパ並みに引き上げる。

2 人生前半の社会保障が重要(若年層支援強化、既に生じている世代間の不公正の是正)

3 多極集中(都市や地域の極が多数存在、極は集約的なまちになっている。)、コミュニティ空間(歩いて楽しめるまちづくり)の形成

4 都市と農村の持続的相互依存を実現するための都市・農村間の様々な再配分システムの導入。

5 企業行動、経営理念の軸足を、拡大・成長から持続可能性にシフト

 

拡大・成長をさらに押し進めようとする方向と、定常化社会を前提に持続可能性を追求する方向とは、理念において大きな違いがある。自民党が前者、野党が後者に重心があるようではあるものの、具体的な政策は、理念に沿って整理されているわけではなく、国民の支持を幅広く得ようとして、両方の方向を追求するようなものとなり、結果、似通ったものとなっているようにみえる。

実際、明確な理念を掲げなくとも、現在の経済社会環境にかんがみると、2〜5のような方策(特に2、3かな)の方向性については基本的に広く合意があるように思える。

一方、全く合意が得られていないのが消費税の欧州並みへの引き上げであり、その実現の可否が、著者の掲げる理念に即した社会の実現(そのための方策の実施速度)を規定するだろう。

消費税の逆進性について著者の以下の指摘は重要に思える。すなわち、70年代頃までは政府支出に占める社会保障の割合が小さく、したがって所得配分は累進課税によって行うのが最も重要だった。しかし、社会保障が最大の政府支出となった中では(社会保障は中所得層以下に給付される部分が大きいため)、税金を集める段階より、使う段階での再配分効果が大きくなっている。(=累進性による再配分から社会保障給付による再配分へ。)消費税を上げつつ社会保障水準を高めていく(かつ借金を返済していく)ことが重要。消費税20%水準の欧州の格差は小さい。

特に(借金のツケ回しをされる)若年層が消費税引き上げに反対するのは、合理的な行動とは言いかねる気がする。これから人生前半の社会保障を充実させていくことなどでその理解の醸成を図るということだろうが、卵と鶏のジレンマでもあるかな。

人口減少社会のデザイン

人口減少社会のデザイン