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読書備忘録です。

科学者はなぜ神を信じるのか/三田一郎

本書で紹介される超一流の物理学者が神をなぜ信じるのかという考え方の道筋、折合いの付け方、あるいは神からの影響の受け方は、様々に興味深い。

著者は、科学法則の創造者が神であるとの考えであり、宇宙のはじまりを、科学法則を誰が作ったかを突き詰めていってもキリがなく、最後に「何か」がある以上、神は存在しないと考えることこそが思考停止であり、最後には神は存在すると信じるとする。神業とは、永遠に来ない終わりであると。

一方、小林・益川理論の益川博士は、信者をやめさせようとする「積極的無宗教」の立場であり、また、小柴博士は「宗教がない方が世界は平和だ」と言う。ドーキンスが「神は妄想である」として、宗教の弊害を痛烈に批判したのも同様の立場であろう。

これに対し、著者は「神と教会と宗教を混同すべきでない。神を心の中で信じることは、教会や宗教活動とはまた別のことだ」という旨述べる。それはまさにそのとおりで内心の自由なのだが、著者は聖職者でもあるので、それで終わりで済むのか?という感じなのだが、それは本書の扱うところではないというところであろうか。

 

 

 

 

ドストエフスキー 父殺しの文学/亀山郁夫

比較的最近読んだカラマーゾフの兄弟などはまだなんとかなるのだが、各テキストの要旨なども記載されているものの、結構厄介だった。

ここまでのめり込むような謎解きの作業は、学者の領分だろうと、理解力の及ばぬところを棚に上げておく。

 

ドストエフスキー 父殺しの文学 (上) (NHKブックス)

ドストエフスキー 父殺しの文学 (上) (NHKブックス)

 

 

ドストエフスキー 父殺しの文学 (下) (NHKブックス)

ドストエフスキー 父殺しの文学 (下) (NHKブックス)

 

 



 
 

 

 

 

 
 

 

 

 

タイワニーズ/野嶋剛

日本と台湾との関係は、本省人外省人更には「台湾人」、また、中華民国中共との関係といった対立図式の中で、複雑なものとなっている。そんな中で比較的良好な関係が維持されているのは、本書で取り上げられるような人々の活躍があったからであると。

取り上げられるのは、蓮舫リチャード・クー東山彰良、温又柔、ジュディ・オング余貴美子、羅邦強、安藤百福陳舜臣邱永漢とその家族、祖先。

共通するのは、激動の時代、複雑な環境の中で生きてきた逞しさか。

 

タイワニーズ 故郷喪失者の物語

タイワニーズ 故郷喪失者の物語

 

 

 

大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清/松元崇

高橋是清の自伝というより、明治維新から太平洋戦争に至るまでの日本を、財政、金融、税制の面から見たもの。この時期の歴史を扱う本は多いが、このような切り口はとても興味深く、なるほどと思わせるところが沢山あった。

 

大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清

大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清

 

 

 

 

 

花殺し月の殺人/デイヴィッド・グラン

ネイティブ・アメリカンの大量殺人は、西欧・白人植民地主義の流れの中で白人以外はヒトに非ずという差別意識がなお強かった(というか、それが当然のこととして、意識すらされない)時代の悲劇なのだろう。もちろん、時代のせいとしてその行為が正当化されるものではなく、被害者の、また被害者の家族の無念は普遍のものであること、言うまでもなく、やり切れない思い。

 

 

花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

 

 

 

15時17分、パリ行き/アンソニー・サドラーほか

パリ列車テロの模様とそれを阻止したアメリカ人3人のそれまでの人生、事件後の狂騒を描く。事件そのものの記述が少ないのに驚く。

ヒーローとなった3人のその後の人生がどうなるのか、持ち上げられ、大はしゃぎなだけに、その方が気になる。

 

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

 

1941 決意なき開戦/堀田江理

日本における真珠湾までの政策決定過程を、英語で米国人向けに書いたものの翻訳。

勝ち目がないと分かっていた戦争に突入してしまった「決意なき開戦」の原因は、日本の統治機構(システム)の欠陥(独裁とは逆の無責任体制)だけでなく、近衛をはじめとする当時のリーダーの性格にも求められる。

新事実、新解釈というものがあるわけではないのだろうが、よくまとまっており、また興味深く読める。翻訳で日本人が読むものとしても十二分に価値があると思う。

 

1941 決意なき開戦: 現代日本の起源

1941 決意なき開戦: 現代日本の起源