HONMEMO

読書備忘録です。

ノンフィクション

アメリカ型ポピュリズムの恐怖/齋藤淳

副題は、「トヨタたたき」はなぜ起きたか。 2009年のレクサス急加速事故を端緒とする激しいバッシングの背景には、 扇動的な報道と苦情増加の負のスパイラル 魔女狩り的公聴会という政治ショー GMの破綻、トヨタの売れすぎでアメリカのプライドを傷つけた? …

完全なる証明/マーシャ・ガッセン

世紀の難問ポアンカレ予想を証明したペレルマンは、フィールズ賞の受賞を拒否、クレイ研究所の100万ドルの賞金も拒絶し、数学研究からも離れて隠遁してしまう。 証明に対する賞賛以外の、カネ、名声、取材騒ぎのような俗事に耐えられず、もともとあまりなか…

妻と飛んだ特攻兵/豊田正義

昭和20年8月「19日」に、「満州でソ連に対して」、「妻と一緒に」特攻したという信じられないような事実。 関係者が亡くなっていることや夫婦間の心情などはいずれにしても想像するしかないことなどもあって、肝心な部分の厚みに欠けるという印象をもつ。一…

パルモア病院日記/中平邦彦

なお新生児死亡率の高い時代に周産期医療の重要性を説き、これを実践するためパルモア病院を開設した院長三宅廉氏の奮闘記。そのバイタリティは、本書でも言及される日野原重明氏に勝るとも劣らない。 本書を手にしたのはHONZで言及があったからだが、たまた…

アマン伝説/山口由美

アマンリゾーツを紹介する旅行案内本ではなく、また、創業者エイドリアン•ゼッカの伝記を超えて、リゾート•ビジネスの動向を追う意図は分かるが、対象を広げたせいで、散漫になった印象。アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命作者: 山口由美…

トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所/中田整一

第二次大戦中米国カリフォルニア州に設けられた日本人捕虜尋問所とそれにかかわる日米の関係者を巡るノンフィクション。 日本人捕虜は、「生きて虜囚の辱めを受けず」との戦陣訓から捕虜となった場合の身の処し方についての指導は行われなかった。そのことも…

田中清玄自伝/田中清玄・大須賀瑞夫

戦前東京帝大を出て、武装共産党の指導的地位にあり*1、獄中転向後は、天皇主義者・右翼大物として、石油取引や鄧小平とのパイプなどを通じた日中関係などさまざまな政治的・経済的な場面で暗躍した人のようだ。 天皇中心主義のほか、米国依存からの脱却、ア…

ルワンダ中央銀行総裁日記/服部正也

1965年から71年にかけて、独立後間もないルワンダの中央銀行総裁を務めた日本人の記録。 著者は、中央銀行総裁の本来の責務たる平価切下げと二重為替制度の廃止のみならず、大統領からの信任を得て包括的な経済対策を立案し、現地の、特にルワンダ人の声をよ…

未解決事件/マイケル・カプーゾ

元連邦捜査官と犯罪心理学者、法医学アーティストの3人が中心となって設立した迷宮入りした犯罪の再捜査コンサルティングを行う組織「ヴィドック・ソサエティ」の活動。 アメリカのTVショー「アメリカズ・モスト・ウォンテッド」なんかをうまく使って(使わ…

ロジカルな田んぼ/松下明弘

著者は、様々工夫しながら、有機・無農薬で山田錦をはじめコメ9町歩を作ったり、新品種を登録したりする自称「稲オタク」。 なぜこのような農法がうまくいくのか、いろいろと説明はあるのだが、生命力なんていうことを持ち出されてなんだかよく分からなくな…

宿澤広朗 勝つことのみが善である/永田洋光

ラグビー日本代表監督などを歴任、トップリーグの設立に尽力する一方、三井住友銀行の執行取締役として頭取にとも目されていた宿澤広朗の伝記。急逝されたのが本当に惜しまれる。トップリーグの成功と、日本で開催されるワールドカップで、日本が氏の言う意…

ハチはなぜ大量死したのか/ローワン・ジェイコブセン

何年か前、日本でもハチがいなくなったと騒ぎになった。その少し前、アメリカ・欧州でも蜜蜂が姿を消していた。Colony Collapse Disorder(CCD)と呼ばれるその現象の原因を、農業の実情から詳細に解説するノンフィクション。 原因は今でも必ずしも科学的に明…

ウーマンアローン/廣川まさき

第2回開高健ノンフィクション賞受賞作。著者がアマゾンならぬユーコン川を一人で下り、新田次郎「アラスカ物語」のゆかりの地、人を訪ねる旅行記。 冒険物語でもあるのだが、比較的あっさりしていて、そこが良いところでもあるのかもしれない。 アラスカ物語…

中国「反日デモ」の深層/福島香織

尖閣問題を契機とする中国での反日デモは、中国指導部による「動員」と言ってもよい側面も持つが、第2代農民工の格差問題などからくる不満の爆発という形でコントロールが効かなくなるという危険性を持つ。 しかし、デモをする方にも、許す当局側にも「反日…

紅の党/朝日新聞中国総局

習近平体制誕生までの経緯を薄熙来の失脚の内幕などを含めて取材したもの。 薄熙来は、重慶市書記として辣腕をふるうが、そのキャンペーンの一つ打黒というマフィア撲滅運動は、政敵排除の手段としても用いられ、文革にもなぞらえられているが、マフィアから…

マテイーニを探偵する/朽木ゆり子

マティーニの歴史や様々なエピソードを紹介する本。カクテルいろいろあれど、このような本が書かれるのはマティーニしかあるまい。 学生の頃、いろいろとカクテルを作ってみたことがあるが、甘いものが多くて結局マティーニ以外を作ることはなくなった。 究…

モサド・ファイル/マイケル・バー=ゾウハー

イスラエルの諜報機関モサドの事件ファイル。著者は、イスラエルのジャーナリストで、国会議員も務め、ベングリオン首相らの公式伝記も執筆したということ。 アイヒマンの探索・拉致、黒い九月やヒズボラなどのテロリストの暗殺など、いわゆるインテリジェン…

世にも奇妙な人体実験の歴史/トレヴァー・ノートン

医学、薬学研究が中心だが、これにとどまらず、広く人体実験、自己実験の事例を取材したもの。 コレラ菌に汚染されている可能性の高い水や、黄熱病患者のゲロ、寄生虫、プルトニウムを飲むとか、時におぞましい内容を含むのだが、ユーモア、ウィットに富む筆…

たった独りの引き揚げ隊/石村博子

本書は、旧ソ連で盛んだったサンボという格闘技で41連勝という記録を作り、わが国柔道・レスリング界にも影響を与えたというビクトル古河の評伝だが、本人が「人生の中で一番輝いていた」という北部満州ハイラルから日本へたった独りで引き揚げた1年半が中心…

おそめ/石井妙子

伝説の銀座マダムの一代記。 関係人物:大仏次郎、白洲次郎、川口松太郎、川端康成、俊藤浩滋、藤純子・・・ 「おそめ」その人の波乱の生涯それ自体もそうだが、著者のやわらかな文体とあいまって、問答無用で楽しめるノンフィクション。著者石井妙子は、NHK囲…

理系の子/ジュディ・ダットン

インテル国際学生科学フェアに挑む10人ほどの高校生たちを取材したノンフィクション。 研究の内容はそれほど詳しく説明されるわけではないので、中に研究内容としてすごいものなのかよくわからないものもあるが、参加者たちそれぞれのドラマは、なかなかに感…

世界屠畜紀行/内澤旬子

本書では、日本はもとより芝浦の屠畜場で働く人々が具体的にどのような差別を受けてきたかの記述は最小限にとどめている。差別を受けた側の立場に成り代わって被差別の歴史をくわしく書くよりも、まず屠畜という仕事のおもしろさをイラスト入りで視覚に訴え…

ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争/デイヴィッド・ハルバースタム

絶大な人気と共和党保守派中国ロビーを背景に、皇帝のように振る舞い、毛沢東の中国との戦争を望むマッカーサーと、共産主義との対決のありうべき主戦場は欧州と考え、戦争を限定的にしたい、人気のないトルーマン大統領の確執を軸に、ウィロビー、ネド・ア…

無限の網/草間彌生

草間彌生の自伝。 強迫神経症(というのか?)を芸術に転化するエネルギーの凄まじさ。 前衛としての矜持。フリーセックスと反戦平和のロジックはよくわからないけれど、ヒッピー文化にこれほどまで大きな影響をもっていたことは知らなかった。 10年ほど前に…

キャパになれなかったカメラマン/平敷安常

著者は、米国ABCのTVカメラマン(フォトグラファー/フォトジャーナリスト)。キャパになれなかったカメラマンとは、自身のことを言っているのだが、本書は、著者のベトナム戦争を中心とした戦争カメラマンとしての活動の記録というよりも、ベトナム戦争にお…

台湾海峡一九四九/龍應台

著者は、台湾の文学者、文化大臣。日本統治下での戦争、日本の敗戦から国共内戦、49年の蒋介石の台湾への敗走という大動乱の時代を、著者の両親、親族の世代の人々(外省人、内省人など)はどう生きたか。ノンフィクションではあるが、イデオロギー的な考察…

人を殺すとはどういうことか/美達大和

2人を殺し、無期懲役で服役中の著者が、贖罪とは何かを考え続けたその記録。10人を超える服役囚についても、それぞれがその犯した罪にどう向き合っているかを聞き出しているが、反省の念が窺がえる人がほとんどいないという実態は、そういうものかと思いつつ…

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか/羽根田治ほか

2009年夏、大雪山系トムラウシ山で、ツアー登山の18人が嵐の中遭難、8人が亡くなった事故(事件というべきか)の検証をしようという本。 遭難の経緯を追い、ツアー登山の問題点を指摘するほか、「気象遭難」「低体温症」「運動生理学」という章立てで専門家に…

幻の楽器 ヴィオラ・アルタ物語/平野真敏

HONZの激賞書評に乗せられて読んでみた。 楽しく読んだが、物足りない。まずはその音(演奏)を聞いてみたい。私にはビオラとバイオリンの音の区別もたぶんつかないだろうから、何をかいわんやではあるが。 幻の楽器 ヴィオラ・アルタ物語 (集英社新書)作者: …

あの戦争から遠く離れて/城戸久枝

中国残留孤児という言葉さえまだない頃に、苦労して帰国した父の苦難を中心に描く第1部、中国での父の(義理の)縁戚や友人たちとの暖かい交流、激しい反日感情に対するとまどい、残留孤児の国賠訴訟などを通して娘である私を中心に描く第2部。構成もすばらし…