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読書備忘録です。

フィクション

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ/ジョン・ル・カレ

スパイ小説の最高峰とも言われるということで。007みたいなものを期待すると読めないだろう。 ナイロビの蜂もそうだったが、エンタメとしては読みにくい。これは多分翻訳のせいではないな。 ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文…

酔郷譚/倉橋由美子

サントリーのPR誌に連載されていたものということで、異界のバーテンダー九鬼さんの作るカクテルがきっかけとなる連作短編は、幻想的で、奇怪で、官能的。カクテルグラスを片手に、ゆったりと読みたい。 解説は松浦寿輝。 完本 酔郷譚 (河出文庫)作者: 倉橋…

燃焼のための習作/堀江敏幸

枕木探偵事務所に、熊埜御堂さんが依頼人として現われ、助手の郷子さんを交えて、雷雨に降り込められた中、延々と、いったりきたりしながら話をする。枕木さんの話し方が「スイッチバック」みたいだと言うのは郷子さんだが、この物語自体もそんな感じ。 この…

ダブル・ジョーカー/柳広司

ジョーカーシリーズの第2弾。まあ、もう十分かな。 ダブル・ジョーカー (角川文庫)作者: 柳広司出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2012/06/22メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 10回この商品を含むブログ (18件) を見る

ゆれる/西川美和

ガソリンスタンドを経営する早川勇と弁護士のその弟修の関係は、GSを継いだ勇の息子稔とカメラマン猛との関係にそのまま引き継がれたということなのだなあ。その4人の独白で綴られる智恵子の転落死の真相がゆれる…というミステリー的なプロットに乗せて、そ…

権現の踊り子/町田康

99年から03年に発表された短編をまとめたもの。川端康成文学賞受賞*1の表題作のほか、「鶴の壺」「矢細君のストーン」「工夫の減さん」「ふくみ笑い」「逆水戸」。 ドツボへドツボへとはまっていくのですね…。 この短篇の続きかとまごう玄侑宗久の解説も楽し…

利休にたずねよ/山本兼一

端正な。史実から空想を膨らませる優れた歴史小説の典型のような小説。 利休が秀吉に見せることも拒む「緑釉の香合」の印象的なラスト…直木賞選考に当たって何人かの選考委員が言及している。→直木賞受賞 利休にたずねよ (PHP文芸文庫)作者: 山本兼一出版社/…

悼む人/天童荒太

主人公静人は、死者を「悼む人」(悼むというのは、死者が愛し、愛されたこと、感謝されたことをいつまでも忘れないこと)なのだが、彼が悼む人は、家族とか本人と何らかの関係のあった人に限らない。「死者」の方からみると、全く関係のない知らない人に悼ま…

地獄の季節/ランボオ

小林秀雄訳。1938年初版。 悲しい哉、私には、良さが全くわからない。 地獄の季節 (岩波文庫)作者: ランボオ,J.N.A. Rimbaud,小林秀雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1970/09メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 36回この商品を含むブログ (57件) を見る

月のしずく/浅田次郎

96〜97年、鉄道員と前後して書かれた人情もの短編集。 表題作月のしずく 辰夫 聖夜の肖像 純一郎 銀色の雨 章次 琉璃想 西岡 花や今宵 芳男 ふくちゃんのジャック・ナイフ ふくちゃん ピエタ ミスター・リー それぞれ、まあドラマでしかちょっとお目にかかれ…

鉄塔家族/佐伯一麦

アスベストによる喘息、鬱病として時に現れる自身の幼少期のトラウマ、神経症的な前妻との間の子供の家出などの厄介ごとを抱えつつも、草花を愛で鳥の声に聞き入り、暖かい隣人に囲まれて穏やかに暮らす。そんな私小説。 鉄塔家族 上 (朝日文庫 さ 32-2)作者…

ブラフマンの埋葬/小川洋子

奥泉光の解説以上に言うところなし。 ブラフマンは、子犬のようでありながら、水掻きを使って水へ深く潜水したりする生き物であり、全編に漂う不可思議な雰囲気の中核をなすのだけれど、それ以上に、名前のない人間たちこそ(…)謎めいている。誰より、主人公…

サクリファイス/近藤史恵

ちょいとネタばれ注意。 自転車ロードレースでは、チームのエースの勝利という観点から自己犠牲を求められる「アシスト」と呼ばれるポジションがある(主人公白石はこのポジション)。一方、レースに仕組まれた陰謀に、自己犠牲の精神を発揮するのは、「エー…

イワン・デニーソヴィチの一日/ソルジェニーツィン

シベリア収容所での一日を体験に基づいて淡々と描いている。 日本人のシベリア抑留について 収容所(ラーゲリ)から来た遺書/辺見じゅん 不毛地帯/山崎豊子 夢顔さんによろしく/西木正明 といった本を読んだ後では、なんだかあまりに淡々としていて、明るささ…

ガラスの動物園/テネシー・ウィリアムズ

訳者小田島雄志が解説で書いているように、「ウィンフィールド一家が家族としていわば普遍性をおびている」「家族というものが、外なる現実社会にたいしてはおたがいに寄りそうと同時に、家族内部においてはそれぞれが究極的には孤独であることを思い当たら…

街の灯/北村薫

とんでもなく久しぶりに北村薫。ベッキーさんシリーズの第1作。「虚栄の市」「銀座八丁」そして表題作3編の連作短編。昭和初期の上流階級の風俗が楽しい。 何が謎って、ベッキーさんが魅力的ななぞだわな。 街の灯 (文春文庫)作者: 北村薫出版社/メーカー: …

吉原手引草/松井今朝子

花魁葛城の失踪の謎について、関係者が逐次語っていくという有吉佐和子「悪女について」のようなスタイルの小説。その語りは、淀みなく、落語を聞いているかのように楽しいものではあるけれど、「悪女について」のような、語り手によって対象の印象が大きく…

許されざる者/辻原登

毎日新聞に連載されたものということもあって、著者の短編小説にあるような難解ともいえる企みのない、読みやすい長編の物語。小説の楽しみが満載*1。アンナ・カレーニナのような姦通小説であり、(日露戦争を背景とした)「戦争と平和」(読んでいないけど…

時が滲む朝/楊逸

天安門事件の民主化運動に挫折、日本で家族を作り、生活する中国人主人公の想い。芥川賞受賞。 時が滲む朝 (文春文庫)作者: 楊逸出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2011/02/10メディア: ペーパーバック購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログ (7件) を…

アサッテの人/諏訪哲史

その企みが様々にあるにせよ、ちと、ついていけません。ポンパ。 本書で芥川賞受賞。 アサッテの人 (講談社文庫)作者: 諏訪哲史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/07/15メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 16回この商品を含むブログ (12件) を見る

草の上の朝食/保坂和志

プレーンソングの続編。このタイトルが、マネの「草上の昼食」の何やら不穏な雰囲気を想起させるように思うのは、私だけだろうか。 本書の創作ノート 草の上の朝食 (中公文庫)作者: 保坂和志出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2000/11メディア: 文庫 ク…

なずな/堀江敏幸

ひょんなことから弟夫妻の赤ん坊なずなを預かることになったコミュニティ紙の記者。赤ん坊は世界の中心で、人々をその引力で引き寄せてくる。これは赤ん坊を育てたことのある人(男でも女でも)にはたぶん馴染みのある感覚だろう。育児、赤ん坊のディテール…

うらなり/小林信彦

「坊っちゃん」という小説は、いわば、坊っちゃんが狂言回しとなったうらなり君と山嵐の悲劇という構造をもつと。なるほど。では、うらなり君の目から見ると「坊っちゃん」の物語はどのようになるか、延岡に飛ばされたうらなり君のその後の人生は…昭和9年に…

オートバイ/A.ピエール・ド・マンディアルグ

レベッカは結婚したばかりの19歳。夫が寝ているうちに素肌に黒革のレーサー服をまとい、恋人の元へとハーレー・ダビッドソンで驀走する。驀走するオートバイのリアル、かつての恋人との逢瀬(バラの花束で鞭打たれるなんてシーンもある)の回想のエロティシ…

タイタンの妖女/カート・ヴォネガット・ジュニア

独特の雰囲気があるSF。なんとなくアーヴィングに似たところがある気がするのだが。太田光の一押しで新装改版となったようだ。 タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2009…

劒岳/新田次郎

主人公は、測量官なる役人で、著者も気象庁の役人だったからか、その組織人としての悲哀みたいなものを書きたかったのかなとも思う。もっとドラマティックな構成にすることはできるのに…というところが、本書の良さでしょうか? 劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-…

眠狂四郎無頼控(一)/柴田錬三郎

江戸時代、転び伴天連を父とするハーフという狂四郎の出自自体が凄い、だから狂四郎のハードボイルドっぷりは尋常でない。円月殺法もスゴイッ。 解説は遠藤周作。狂四郎は、ただのハードボイルド型主人公ではないと。 かつて改版前の第1巻だけ読んでいたのだ…

壬生義士伝/浅田次郎

NHK大河ドラマや映画にもなった新撰組もの…ではあるけれど、新撰組の華々しくも虚しい活躍を描くことを主題とした物語ではなく、武家社会の規範との相克と、真の義に生きようとする下級武士の家族愛を描く物語。やはり浅田次郎は通勤電車で読むのは大変。 解…

ひとり日和/青山七恵

芥川賞受賞。←石原慎太郎も◎か。ふーん。芥川賞らしいと言えばまあそんな感じ。追っかけて読もうといういう気はしない。 「出発」を併録。 ひとり日和 (河出文庫)作者: 青山七恵出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2010/03/05メディア: 文庫 クリック: 21…

けい子ちゃんのゆかた/庄野潤三

「子供たちが独立し、山の上のわが家に残された夫婦の豊かな晩年を描くシリーズ第十作」。その第何作か知らないけれど、かつて「せきれい」を読んだことがあって、その暖かい読後感に惹かれて、また本書を読んだのだけれど、いったいこの同じエピソードの繰…