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読書備忘録です。

書きあぐねている人のための小説入門/保坂和志

小説を書こうとは寸分も思わない者にとっても面白い小説論。以下抜粋。

  • 小説とは、"個”が立ち上がるものだ…
  • 日常の言葉で説明できるような芸術(小説)は、もはや芸術(小説)ではない。
  • 小説というのは、…勝手気ままなほうに進んでしまう"運動性”を持っている…
  • 誰の人生でも、人生とは自分を高めるためにあるのだと私は思う。
  • 自己実現や自己救済のための小説は、たまたま同じように鬱屈した人生を送っている人がいれば、その人達の「共感」を呼ぶかもしれないが、読者を「感銘」させることはできない。「共感」というのは、「わかる、わかる」という気持ちで、読み手にとっては一時の慰めにしかならない(ただ、「共感」は得られやすいので、ベストセラーにはなる。)
  • 今の社会は、「役に立つ/立たない」という価値観が広く深く浸透してしまっていて、どういう評価もほめ言葉も、全部それに回収されてしまう恐れがあり、哲学はそういうことと根本的に違うんだという了解を持ってもらわないと何を書いても無駄になってしまう。
  • 小説は日常的思考様式そのままで書かれるものではないし、読まれるものでもない。日常が小説のいい悪いを決めるのではなく、小説が光源となって日常を照らして、ふだん使われる美意識や論理のあり方を作り出していく。
  • 小説というのは本質的に「読む時間」、現在進行形の「読む時間」の中にしかないというのが私の小説観であって、テーマというのは読み終わった後に便宜的に整理する作品の一側面にすぎない。
  • 小説とは、一作ごとにまず作者が成長するためのものなのだ…
  • 人間が普通に人間でいることがいちばんの不思議で、今後書かれるべき題材は、この「普通であることの不思議」しかないと私は思うのだが…
  • …どの文章も、風景のすべてを書き尽くしているわけでなく、何を書いて何を書かないかの取捨選択がなされていて、その抜き出した風景をどういう風に並べると風景として再現されるかという出力の運動(…)に基づいて書かれている。意外かもしれないが、これが文体の発生であって、私の考えでは、文体というのはこの作業の痕跡のことでしかない(だから翻訳でも十分に文体が分かる)。
  • 輪郭のはっきりしたストーリーというのは出尽くしてしまっている…
  • 人がストーリーの展開を面白いと感じられる理由は、それが予測の範囲だからだ。
  • ストーリー・テラーは、結末をまず決めて、それに向かって話を作っていく……それがなぜ小説ではないのか。「小説とは書きながら自分自身が成長するもの」…だということを言ってきた。結末が書く前から決まっていたら、書きながら成長することができない。
  • リアリティとは、それを生み出すサイクルに書き手が巻き込まれることによって初めて生まれてくる。つまり、文章を書く感情や思考を一色にしないことで文章が現実と連絡を取り、そこからリアリティが生まれる。

書きあぐねている人のための小説入門

書きあぐねている人のための小説入門


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