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読書備忘録です。

チョンキンマンションのボスは知っている/小川さやか

香港のタンザニア人コミュニティの経済活動を中心にしたルポ。(サブタイトルの「アングラ経済の人類学」のアングラというのはややミスリーディング。中古車や修理済み携帯などのスポット的な取引が多く、ニッチではあるが、ほとんどは違法というほどではない。)

彼らのコミュニティは、メンバー相互の厳密な互酬性や義務と責任を問わず、無数に増殖拡大するネットワーク内の人々がそれぞれの「ついで」にできることをする「開かれた互酬性」を基盤とすることで、気軽な「助け合い」を促進し、国境を越える巨大なセーフティネットを作り上げている。

彼らのビジネスは、売り手、買い手の間に信用を創出することによって成り立っているわけだが、その参加者の信用評価の手法は、メルカリのようなオークションサイトが信用できる顧客と信用できない顧客を明らかにしていくものであるに対して、誰もが信用できないという世界・人間観を維持しながら、上記のような開かれた互酬性を基盤とするものになっている。

チョンキンマンションのボスは何を知っているか?彼は、「不完全な人間とままならない他者や社会に自分勝手に意味を持たせることがどういうことかを知っている。自分に都合よく他者や社会を意義づけることにより、裏切られる事態を含めた不確実性が存在することの重要性を知っている。」彼らの仕組みは、洗練されておらず、適当でいい加減だからこそ、格好いい、と。

理屈っぽいところだけ抜いたが、タンザニア人たちの人間模様の面白さがこの本の美点かも。

大宅壮一ノンフィクション賞受賞。