K2日本人女性初登頂を果たした著者は、その後砂漠に魅せられ、シリア人青年と恋に落ち、シリアを行き来するうち内戦に巻き込まれ、結婚、日本で暮らすようになる。著者は従軍記者というわけでもないので、シリアでの体験はK2ほど切迫した危険は感じないものの、盗難にあったり、秘密警察と思しきものの監視がついたりとやはり相当怖い。
異文化との折り合いの付け方は難しい。著者はとりわけ国際結婚ということを通じてそれを痛いほど感じる。
「日本人は、多様な文化を受け入れることに比較的寛容である一方で、他者が文化的、宗教的なこだわりを持っていることを、理解しにくい傾向がある。・・・アラブ社会では、必ずしも郷に従うことなく、どこであっても自らの文化に誇りを持っていきることが普通だ」
農耕民族的日本人の価値観と遊牧民的アラブ人の価値観、それぞれを形作ってきた歴史の蓄積、民族的背景の違いを、相手の尊厳として認め合うことで、著者夫妻は共生しようとしている。分断されたシリアの修復は、そのようにたとえ理解し合えなくともお互いを認め合う緩やかな共存が鍵だと。
まあそうなんだが、寛容よりこだわりという文化は手強そうではある。