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読書備忘録です。

月まで3キロ/伊予原新

物理学、地質学などのモチーフが散りばめられた読後感の清々しい短編集。

著者は地球惑星科学の博士ということ。本書の中の「星六花」では気象庁職員が登場し、「山を刻む」では新田次郎の本を話題としていて、初めから編集者が新田次郎賞を狙っていたんではあるまいな?

 

月まで三キロ

月まで三キロ

  • 作者:新, 伊与原
  • 発売日: 2018/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

人間の土地へ/小松由佳

K2日本人女性初登頂を果たした著者は、その後砂漠に魅せられ、シリア人青年と恋に落ち、シリアを行き来するうち内戦に巻き込まれ、結婚、日本で暮らすようになる。著者は従軍記者というわけでもないので、シリアでの体験はK2ほど切迫した危険は感じないものの、盗難にあったり、秘密警察と思しきものの監視がついたりとやはり相当怖い。

異文化との折り合いの付け方は難しい。著者はとりわけ国際結婚ということを通じてそれを痛いほど感じる。

「日本人は、多様な文化を受け入れることに比較的寛容である一方で、他者が文化的、宗教的なこだわりを持っていることを、理解しにくい傾向がある。・・・アラブ社会では、必ずしも郷に従うことなく、どこであっても自らの文化に誇りを持っていきることが普通だ」

農耕民族的日本人の価値観と遊牧民的アラブ人の価値観、それぞれを形作ってきた歴史の蓄積、民族的背景の違いを、相手の尊厳として認め合うことで、著者夫妻は共生しようとしている。分断されたシリアの修復は、そのようにたとえ理解し合えなくともお互いを認め合う緩やかな共存が鍵だと。

まあそうなんだが、寛容よりこだわりという文化は手強そうではある。

 

人間の土地へ

人間の土地へ

  • 作者:小松 由佳
  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

歩いて、食べる東京の名建築さんぽ/甲斐みのり

行ったことのあるのは、取り上げられている25の建築の半分強かな。行ったことがあっても入れないところ、気がつかなかったところも多い。それから忘れているところ。東京文化会館は長いこと行っていないが、座席があんなにカラフルとは。人が座ってて分からなかったのかな?

 

歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ

歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ

  • 作者:甲斐 みのり
  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 



13歳からのアート思考/末永幸歩

アート思考とは、自分の内にある興味をもとに、自分のものの見方で世界を捉えて探究すること。(アーティストとは、興味のタネを自分の中に見つけ、探究の根を伸ばし、表現の花を咲かせる人。)

VUCA(volatility,uncertainty,complexity,ambiguity)ワールドにおいては、正解を見つける力ではなく、自分なりの答えを作る能力を養うことが重要。

そのための作法として

鑑賞の質を高める「アウトプット鑑賞」=作品を見て、気づいたことや感じたことをアウトプットする。

これに、2つの問いかけをする。

1 どこからそう思う?=発見した事実から主観的に感じた意見を問う。

2 そこからどう思う?=主観的に感じた意見の根拠となる事実を問う。

これによって新たな気づきが得られ、自分なりの答えが得られることがある。

アート鑑賞の2つのやりとり

1 背景とのやりとり

作者の考え、人生、歴史的背景、評価分析などの情報(背景)と双方向的な関係を結び、背景が投げかける問いに向き合うことで自分なりの答えを出す。

2 作品とのやりとり

1を離れて純粋に作品と向き合い、問いかける。鑑賞者の作品とのやりとりが、作者とともにアート作品を作り出す。(等伯「松林図屏風」のような作品とのやりとりを許す空間が残されている方が作者と鑑賞者がともに作り上げる作品になりやすい。)

 

現代に至るアートの歴史 6つの絵画

1 マティス「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」 それまでの目に映るとおりに世界を描くという目的からアートを解放した。

2 ピカソアビニヨンの娘たち」  遠近法によらず多視点で捉えたものを再構成した。リアルは1つではない。

3 カンディンスキー 「コンポジションVI I」見る人を惹きつける絵を追求した結果、具象物が書かれていない絵を作り出した。

4 マルセル・デュシャン「泉」 アート作品=目で見て美しいものという常識を打ち破り、アートを思考(探究の根)の領域に移した。

5 ジャクソン・ポロック「ナンバー1A」 アートは何らかのイメージを写し出すものという役割から開放し、物質としての絵に目を向けさせた。(子供の描いた絵は、何かのイメージではなく、単に行動の軌跡)

6 アンディー・ウォーホール「ブリロ・ボックス」 アートという枠組み自体の否定。 (アートであるかないかは関税の世界では差があるというのは面白い)

アートという枠組みがなくなったことは、アートがなくなったことを意味しない。 MOMAは、アートという枠組みがなくなった平野で、自分たちのものの見方に従って、本当にすぐれたものを選び出そうとしている。

アートの本質は、表現の花ではなく探究の根。自分なりの考え方を生み出すこと。自分なりのものの見方を取り戻すためにアートは刺激となる。(日本では美術館に安らぎを求めに行くが、海外では刺激を求めにいく。)

エルンスト・ゴンブリッジ「これがアートだというようなものは、ほんとうは存在しない。ただアーティストたちがいるだけだ。」

そのように、アートはあまりに自由。本当に優れたものというのも客観的基準というものを持ち得ない(?)とすれば、何をもって評価することになるのだろう?

息子推薦

 

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

  • 作者:末永 幸歩
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

月岡草飛の謎/松浦寿輝

俳人月岡草飛を主人公にした連作奇譚集。

織り込まれる月岡草飛の俳句や歌仙はすばらしい(勉強にもなる)のだが、月岡草飛自体はへんちくりんなので、全体としてはスラップスティックな趣がある。人違い、会場違いのとぼけた話や前作人外のモチーフも出てくる幻想、エログロなど織り交ぜて、最後は登場人物総登場のお花見グランドフィナーレ。

 

月岡草飛の謎

月岡草飛の謎

 

 



 

こぐこぐ自転車/伊藤礼

事故を起こして骨折したり、お尻が痛くなってもやめられない自転車乗り。エッセイを書いた時点で古希、喜寿になってもまだ乗っているようなので立派。ユーモアほのかに楽しめる。

伊藤整の息子。と、何かにつけて言われる人生なんだろうな・・・などと。

 

こぐこぐ自転車 (平凡社ライブラリー)

こぐこぐ自転車 (平凡社ライブラリー)

  • 作者:伊藤礼
  • 発売日: 2011/01/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)