話題となった「貧乏人の経済学」の著者(ノーベル経済学賞受賞者)による、格差、貧困問題などの世界の課題についての見方、考え方、提言。
・経済学(者)はなぜ信頼されないのか?
→経済学者の意見が一般の意見とかけ離れている。例)米国が鉄鋼等に追加関税をかけると米国人の生活は向上する?について、経済学者は100%NO、一般人は1/3がNO
→一般の耳に心地よいいわゆる「エコノミスト」のポジショントーク、一方アカデミズムは断定を避ける物言い。
・移民
実証研究によると、移民が受入国住民全体の賃金に与える影響は極めて小さい。移民により賃金が下がるとは限らない。
∵労働者の流入によって労働供給曲線だけでなく労働需要曲線も右に移動する(移民による需要創出)。低技能移民の場合、機械化の進行を遅らせるなど生産方式を改める。移民は受入国労働者がやりたがらない労働をする。
ただし、高技能移民は、受入国労働者の賃金水準を押し下げる可能性が高い。
そもそも経済的インセンティブだけでは移民にはなかなかならない。
・自由貿易
ストルパー=サミュエルソンの定理〜自由貿易により労働力が豊富な国の労働需要は拡大し賃金は上昇する。一方、資本が豊富な国(米国)では資本価格が上昇(賃金は下落)。したがって労働力豊富な貧困国に好ましい影響を及ぼす。また、政府が自由貿易の勝ち組に税金をかけ、それを負け組に再配分すれば米国の労働者の生活も向上する。
しかし、実態はそうなっていない。これは、人も資本も機敏に移動することができないから。変化と移動の必要に迫られた人々の痛みに配慮しなければならない。
・自分は不当に不利益を被っている、自分は尊重されず見捨てられていると感じさせることに対する防衛反応が、差別や偏見の形で表明される。
→差別的感情を露わにする人などを軽蔑、見下すことは、感情を逆撫でするだけ(差別的感情は、この世界で自分は尊重されていないのではないかという疑いに根ざしている。)
→差別や偏見と戦う最も効果的な方法は、差別そのものに直接取り組むことではなく、政策論議に対する信頼を取り戻すこと。
・成長を牽引する要因を特定することは困難であり、成長促進策を示すことも難しい。成長に取り憑かれるのをやめ、少なくとも富裕国では、どうすればもっと富裕になるかではなく、どうすれば平均的な市民の生活の質を向上できるかを考えるべき。
GDPは目的ではない。最終目標は、GDPの増加ではなく、市民の、とりわけ最貧層の生活の質を上げること、その幸福にフォーカスすること。
・不平等の拡大の原因として、スーパースター企業による勝者総取り、グローバル化、硬直的な経済などがある。
最高税率の引き上げは、税引き後の所得格差だけでなく、税引き前の所得格差も減らす。まずここから取り組むべき。
・低成長下で利益が回ってこないとスケープゴートが必要となる。標的は移民と貿易。
・政府に対する甚だしい不信感は、救済を必要とする人々を助ける上での最大の障害。
→政府介入が明らかに必要な場合にも反射的に猛反対する。
→政府に優秀な人材が集まらなくなる。
→官僚から意思決定権を奪い、制約を課すことが合理的とは限らない。
・社会政策の設計においては、救済することと人々の尊厳に配慮することとのせめぎ合いにどう対処するかを常に考える必要。→無条件給付か、あれこれ介入して条件を満たす人だけ救済するやり方か。
ユニバーサル・ベーシックインカムは、財源の問題はあるが、途上国においては支持できる。
貧困撲滅は尊厳とともに。