HONMEMO

読書備忘録です。

出世と恋愛/斎藤美奈子

斎藤美奈子の文芸批評は、切り口/補助線の引き方や見立ての面白さと歯に衣着せぬ語り口で毎度楽しめる。本書でも、まあ上品とは言いかねるけれど、啖呵の切れ味は見事だ。

青春小説(立身出世小説)の王道は「告白できない男たち」、恋愛小説の王道は「死に急ぐ女たち」であり、黄金の物語パターンがある。なぜそうなのか、それは男子校文化のためではないか。ひょっとするとその中で育った作者自体も恋愛を書く力がないので、恋愛は成就せず(告白すらできず)、たまに実ってもさっさと女性が死んで(作者に殺されて)終わるのかもしれないと。ひー面白い。

「青年」という語の発祥は、明治20年代初頭、「壮士」に代わり台頭した世代像で、全共闘世代の後に三無世代がアンチテーゼとして出てきたのと同じような一世を風靡した流行語だったと。三四郎などがこの「青年」にあたるが、日露戦争の頃には、華厳滝に身を投げた藤村操をモデルとする「煩悶青年」が登場。金色夜叉の貫一は時代遅れの壮士だった。

近代文学はほとんどちゃんと読んでいないのだが、本書のような評論で読んだ気になっているのではないかという気もする。