HONMEMO

読書備忘録です。

この世界の問い方/大澤真幸

時事評論集

突き詰めていく論考で勉強になる。

1 ロシアのウクライナ侵攻

ロシアのウクライナ侵攻の背景に、ヨーロッパに対する羨望、劣等感がある。ヨーロッパの根幹は、キリスト教の隣人愛(自由平等、博愛、民主主義)であるが、ヨーロッパの行動は、自らその理念を裏切る偽善的なもの(植民地主義帝国主義)だった。このため、ロシア人にとって最も良い解決は、ウクライナの犠牲者の苦しみに同情して政府に反抗するなどにより、ヨーロッパの真の(偽善ではない)理念を実現することだ。これによりロシア人はヨーロッパに対する劣等感を克服して戦争を終結させることができる。

自国の苦難、犠牲者を優先する普通の愛国者でも、同胞より国際秩序・人類だといきなり普遍主義を主張する者でもなく、ロシアに対して愛国的である故にロシアが普遍的に妥当な正義や理念に立脚して行動することを欲する者による行動が、政権を倒し、戦争を終結させる時、国家間紛争としてはロシアが負けとなるが、ロシア人民も勝利したことになる。

ウクライナ戦争の教訓は、ただの愛国、国益を超える目標を持たない凡庸なナショナリズム、すなわち普遍性を放棄している愛国主義ナショナリズムは、倫理的には全く評価できない最悪な態度だということだ。日本人についてみると、日本人はとっては政治が準拠すべき原理として国益という特殊利害以上のものはない。憲法論議においても、護憲派改憲派ともに国益に叶うかどうかだけで説得しようとしており、何がグローバルで普遍的な正義に貢献できるのかという視点がない。

2 中国

中国はネーションの看板を掛けた帝国である。

帝国は序列を肯定するシステム、ネーションは平等性を選好するシステムである。また、中華帝国には法の支配(最高権力者が法に拘束されること)がない。

帝国は、(ネーションと異なり)自らを世界そのものと合致させようとする意志を持つ。したがって中国は簡単に台湾の統合を諦めない。中国が台湾に武力侵攻した時は、日本は台湾の独立を認め、集団的自衛権の名の下に戦争に参加することになる可能性が高い。

日本はアメリカに加担すべきであるが、それは暫定的な解決にしかならない。100年を視野に入れた上での問題の真の超克のための第三の道がある。

中国は権威主義的資本主義であり、他の国が中国を模倣しようとしても困難と考えられるが、米国のようなレント資本主義(GAFAMが支配する資本主義)の形態をとるリベラルな資本主義は、権威主義的資本主義によく似たシステムに変貌してゆく。資本主義の行き着く先が権威主義的資本主義であるとすれば、真に自由で平等な社会は可能か、ということこそが真の問いであり、資本主義そのものの超克を含意する。

コロナ危機の対応を推し進めればベーシック・インカムという政策に近づく。(MMTはいずれ失敗する。)

BIは財政的にも可能だが、それはレントという側面を持つ、すなわち資本主義の枠内でのみ可能なものであり、問題を真には解決しない。問題の解決のためには、結局、富は基本的にコモンズ(共有物)であるというコミュニズムによることになる。

その他、BLM、憲法についての考察あり。