HONMEMO

読書備忘録です。

2008-01-01から1年間の記事一覧

私家版・ユダヤ文化論/内田樹

ユダヤ人の神は「救いのために顕現する」ものではなく、「すべての責任*1を一身に引き受けるような人間の全き成熟を求める」ものである…。勧善懲悪の全能神はまさにその全能性ゆえに人間の邪悪さを免責する。一方、不在の神、遠き神は、人間の理解も共感も絶…

遠野物語/柳田国男

遠野物語拾遺を合わせて収録。民俗学の事始めみたいな本として知られる書で、学術的な資料としては興味尽きないものがあるのだろうけれど、それぞれが数行から2ページくらいの挿話なものだから、目次を眺めているようで、へぇと思うものはあれど、興味が膨ら…

父・こんなこと/幸田文

父幸田露伴を看取るまでをしるす「父―その死」、父と娘の日常を書く「こんなこと」の2編。幸田文は、概ね私の祖父母の世代。その時代らしさを感じ取る面白さもあるけれど、一方で、偉大な父と勝気な娘の交情が一人の娘としての目から書かれていて、時代であ…

オーデュボンの祈り/伊坂幸太郎

人気作家伊坂幸太郎のデビュー作。ラッシュライフとこれの2作しか読んでいないが、本書の方がいい。 支倉常長であるとかリョコウバト*1なんかのもつ不思議な魅力をうまく使っているなあと思う。でも何かもの足りない感じがする。これまでに上梓されている他…

死の棘/島尾敏雄

自らの不貞がもとで精神に異常を来した妻の狂気の姿も、みずからの心のうちも、あまりにもあからさまに、また凄まじく描かれていて、小馬鹿にされがちな私小説の力というものを見せつけられるようだ。 どっと疲れる。 死の棘 (新潮文庫)作者: 島尾敏雄出版社…

紳士同盟/小林信彦

30年近く前のギョーカイを舞台とするコン・ゲームもの。コン・ゲームものではジェフリー・アーチャー「百万ドルをとり返せ」を超えるものに出会えないなあ。最高に面白いコンゲームものが読みたい! 紳士同盟 (新潮文庫)作者: 小林信彦出版社/メーカー: 新潮…

日本の行く道/橋本治

集英社新書3部作とかで終わりかと思っていたが、あまりに売れて、おまけということだろうか。しかし、これは、これまでの3冊以上に面白い。 いくつかメモしておこうかと思ったが、一部だけ書いておくのも何だかバランスが悪いので、やめておくことにする。社…

サキ傑作集/サキ

「開いた窓」ほか20編を収載。 先頃読んだ「倉橋由美子の怪奇掌編」の解説で、北杜夫がサキの短編を思い出させると書いていて、そういう作家がいたなと思いだして。オー・ヘンリーと並び称される短編の名手ということだが、オッという鮮やかなオチがあると…

百年の孤独/G・ガルシア=マルケス

こんなに大きな物語があったのか。「百年にわたる一族の大河小説」とかいうのでは、小さすぎてこの物語の説明にならない。 人がサグラダ・ファミリアを初めて見たときに感じる衝撃に似ている*1と言ってもいいかもしれない。 一文が長いのは翻訳のせいではな…

碁打秀行/藤沢秀行

日経の「私の履歴書」を再構成したもののようだ。もう15年も前に書かれたものなのだなあ。新潮新書「野垂れ死に」って一体何だったのだろう。 碁打秀行―私の履歴書 (角川文庫)作者: 藤沢秀行出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1999/04メディア: 文庫この商品…

胎児の世界/三木成夫

茂木健一郎「脳と仮想」で紹介されていて興味をもったので。 先生、それはちょっとこじつけでは…といったようなところが、すごく面白い。壮大なファンタジーのような科学というか、生命科学をもとに空想(といっては言い過ぎか)を広げるその思考がきわめて…

椰子・椰子/川上弘美

なんでしょうね、これは…。嫌いじゃないけど、ここまで行くとついていけないな、あたしゃ。解説は南伸坊。 椰子・椰子 (新潮文庫)作者: 川上弘美,山口マオ出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2001/04/25メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 17回この商品を含むブ…

倉橋由美子の怪奇掌篇/倉橋由美子

怪奇掌編20編。挿絵もいい。解説が北杜夫。 倉橋由美子は、本書と同様のテイストの「大人のための残酷童話」ともう一冊何か読んだ記憶があるのだが、思い出せない。パルタイとか聖少女といった有名どころではなかったことは確かなのだが。聖少女が復刊された…

カブキの日/小林恭二

最近、シネマ歌舞伎というメディアで「野田版研辰の討たれ」やら「鼠小僧」やらを楽しく見て*1、ちょっと私的に歌舞伎ブームなこともあって、積んであった本書をひっぱりだして読んでみた。 なんと、三島賞の選考に当たって、石原慎太郎、筒井康隆、宮本輝の…

本の雑誌ベスト10

web上に本の雑誌のベスト10(ノンジャンル&文庫)がupされていた。文庫の2位、萩原延壽『遠い崖』というのは、副題にアーネスト・サトウ日記抄とあるのだが、随分と大部になっているけれど、どうだろう。サトウの「一外交官の見た明治維新」はすごく面白い…

人間・この劇的なるもの/福田恆存

新潮文庫が月に2冊づつ「人生で二度読む本」として、(いわゆる)名著を復刊させているのは、とても良い(ありがたい)企画だと思う。その一冊。 個性とは。自由とは。死とは。全体、必然、宿命とは…。劇、演戯、祭司…。 坪内祐三、佐伯彰一が引用している部…

ナツコ 沖縄密貿易の女王/奥野修司

終戦直後の5年間ほどアナーキーな状況の沖縄で、密貿易を差配して存在感あふれる女性ナツコを描く。ナツコというより、短かったがエネルギッシュだった「ウチナー世」を描いているというべきか。 無名の人の部類に入ることもあって取材に大変苦労したような…

葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午

これはあまりにもあざとい。貫井徳郎「慟哭」よりひどい。 日本推理作家協会賞、本格ミステリ大賞なんてのを取ってるのか…。わたしには推理小説を読む資格はないようだ。 葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)作者: 歌野晶午出版社/メーカー: 文藝春秋…

本屋大賞ノミネート作発表

私自身の関心が本屋大賞の守備範囲からずれてきているのを感じる。第1回が小川洋子だったように、もう少し純文学系に寄るといいのになあと。今回のメンツも何か新味がない気がしてしまう。堀江敏幸とかを推す書店員さんって、いっぱいいそうな気がするんだけ…

敗北を抱きしめて/ジョン・ダワー

ピュリッツァー賞受賞の日本ものといえば、ハーバート・ビッグス「昭和天皇」というのも本書と同じような時期に紹介された記憶があるが*1、そのころ、すでに戦後50年が過ぎ、総括の機運でもあったろうか。 いくつか抜粋メモ。 パンパンの姿は占領下の日本人…

シティ・オヴ・グラス/ポール・オースター

キーワードの一つは、バベル。短い作品だけれどその中で、言葉についていろいろ。 それからDQ(ドン=キホーテ/ダニエル・クイン)とか。identity、喪失感など、いろいろあって…。 オースターって、アメリカでも人気なの?今やエンタメ至上の彼の国でそんな…

芥川賞・直木賞発表

芥川賞、直木賞発表。芥川賞が川上未映子「乳と卵」、直木賞は桜庭一樹「私の男」。本命の受賞というところかな。いずれもすぐ読みたいという感じでもない。 asahi.com:芥川賞に川上未映子さん 直木賞は桜庭一樹さん - 出版ニュース - BOOK

わからなくなってきました/宮沢章夫

宮沢章夫のエッセイを読むのも3冊目になって、まあだいたいその企みも分かってきた…のだろうか。わからなくなってきました。 わからなくなってきました (新潮文庫)作者: 宮沢章夫出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1999/12/27メディア: 文庫購入: 6人 クリッ…

芥川賞・直木賞ノミネート作発表2

リンクをたどっていたら、トヨザキ社長こと豊崎由美氏のブログ「書評王の島」を発見。メッタ斬りを楽しみにする。 (1/9追加)メッタ斬りはここ

芥川賞・直木賞ノミネート作発表

芥川賞・直木賞ノミネート作発表。 http://book.asahi.com/news/TKY200801060153.html http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20080107bk11.htm 芥川賞は毎度のことながら全然わからない。 直木賞については、佐々木譲は、かつて「エトロフ発緊急電」、「ベル…

丸山眞男/苅部直

学生時代、書棚に丸山真男「現代政治の思想と行動」があった。推薦書として名前があって購入したものの、きちんと読んだ記憶はない(「日本の思想」すらつい最近読んだのだ…)。当時本書のようなものを読んでいれば、ちゃんと読んだかも。丸山真男の伝記とし…