HONMEMO

読書備忘録です。

2008-01-01から1年間の記事一覧

戦争広告代理店/高木徹

これも「NHKスペシャル」の取材がもととなった本。一国のメディア対策に(さらにはそれを越えて)民間のPR企業が大きな役割を果たすということ自体が驚きだが、伝える側のメディアの使い方とともに、メディア・リテラシーについてもつくづく考えさせられる。…

河岸忘日抄/堀江敏幸

こころを落ちつけて読める環境で読まないとちょっときついかな。いずれ再読しよう。読売文学賞受賞の傑作なのではあろうけれど、はじめて堀江敏幸を読むならこの本はお勧めしない。 河岸忘日抄 (新潮文庫)作者: 堀江敏幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008…

書きあぐねている人のための小説入門/保坂和志

小説を書こうとは寸分も思わない者にとっても面白い小説論。以下抜粋。 小説とは、"個”が立ち上がるものだ… 日常の言葉で説明できるような芸術(小説)は、もはや芸術(小説)ではない。 小説というのは、…勝手気ままなほうに進んでしまう"運動性”を持ってい…

心にナイフをしのばせて/奥野修司

被害者は高校1年生。加害者は、同級生。被害者の家族は、その死がトラウマとなって長く悲惨な生活を送る一方、加害者は、少年法に守られて、弁護士となるも、被害者に謝罪もせず、補償金も払わない。弁護士ってのがアイロニックで、小説よりも奇なり。 被害…

芥川賞・直木賞受賞作発表

芥川賞は、楊逸「時が滲む朝」、直木賞は井上荒野「切羽へ」。 TVニュースで、楊逸のインタビューを見たが、流暢とは言えない日本語だった。話すのと書くのは違うということなのだろう。 asahi.com(朝日新聞社):芥川賞、楊逸さん「時が滲む朝」 初の中国…

在日/姜尚中

姜尚中の半生記。 民族、国民、国民国家なんてものを考えるとき、ともすると、民族=国民=国家と考えてしまうことがあるので、(アイヌというのもあるけれど)在日の存在は、グローバリゼーションの進む国際社会の中で日本が普通の国*1かどうかを観察する上…

芥川賞・直木賞候補発表

ちょっと前に比べ、興味が全然持てなくなっている…けれど、とりあえずリンク。 http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20080703bk07.htm (7/14追記) メッタ斬りはここ。

悪童日記/アゴタ・クリストフ

固有名詞は出てこないが、第2次大戦下のハンガリーと思しき暗い時代を背景に、感情を排した文体で、ぼくらの悪徳の数々が綴られる。ぼくらの行為ではないけれど、獣姦まで登場。 「ぼくら」として、まるで一人のように記述されているのが、とても不気味。最…

世阿弥/白洲正子

能に対する深い理解と愛情から、時に厳しい現代*1能楽批判もなされているけれど、能を何にも知らない私のようなものには、理解及ばないところも多い。 さいわいお能には、未だ美しいものが部分的には残っている、それを今のうちに見出して、生まれた当時の生…

能の物語/白洲正子

母は、謡を習っていたことがあるらしく、正月の朝は、TVから能楽が流れるのが常だった。私は全く分からないし、だから面白いとも思わない。正月らしいめでたさというのか、風雅というのか、そんなことのためのBGM(画面は、静止画像みたいなものだし。)位に…

君たちに明日はない/垣根涼介

相性の合う山本周五郎賞受賞ということで読んだけれど。あまり印象に残らない。スカスカしている感じなので、あっという間に読み終わってしまう。まとまらない終わり方だなという気もするし。 解説は篠田節子。選考委員として推したようで、べた褒めしている…

補陀落渡海記/井上靖

表題作のほか、波紋、雷雨、グウドル氏の手紙、姨捨、満月、小磐梯、鬼の話、道の計8短編。補陀落渡海記は、菊池寛「頸縊り上人」とよく似た話。 井上靖はやはり長編の方がいいかな。 補陀落渡海記 井上靖短篇名作集 (講談社文芸文庫)作者: 井上靖,曾根博義…

越後つついし親不知・はなれ瞽女おりん/水上勉

表題作のほか、桑の子、有明物語、三条木屋町通りの計5編。(三条木屋町通りだけ、ちょっと時代も毛色も違う。) 高度成長の前まで、こういう極貧の農村はごく当たり前だった。格差社会とかなんとかいっても、こういう話を読むと、まあ全体としては現代日本…

君のためなら千回でも/カーレド・ホッセイニ

「スゴ本」さんのおすすめで。 世界的ベストセラーになるだけあって、俗ではある。でも、俗がまたスゴくいいんだという本があって、この本なんかはその典型かな。初出は原題「カイト・ランナー」で、映画化もあって文庫化に当たって「君のためなら千回でも」…

バルザックと小さな中国のお針子/ダイ・シージエ

現在の中国の小さなお針子たちにとってのバルザックは何だろう。TV,PC…? 瑞々しい青春物語。 考えてみると、バルザックって読んだことがない。「谷間の百合」?…あまり食指が動かないなあ。 バルザックと小さな中国のお針子 (ハヤカワepi文庫)作者: ダイ・…

東京するめクラブ 地球のはぐれ方/村上春樹・吉本由美・都築響一

村上春樹ら3人の「ちょっと」変なところ旅行記。…名古屋、熱海、ハワイ、江ノ島、サハリン、清里。先頃読んだ椎名誠の「全日本食えば食える図鑑」での名古屋の食の衝撃から、「まずは魔都・名古屋」という帯に魅かれて購入。へたれた感じも楽しみ方次第。 東…

古道具中野商店/川上弘美

それまでに登場した人物全員が次々と現れては消え、最後にタケオが登場して…というラストは、様式に則った戯曲を見るような快感がある。 古道具 中野商店 (新潮文庫)作者: 川上弘美出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/02/28メディア: 文庫購入: 5人 クリッ…

イサム・ノグチ/ドウス昌代

《私は東洋と西洋の二つの世界の融合である。そして、さらには両世界を超越する存在でありたい。》 とイサムはつねに願った。 かつて日米を制覇したいと胸をこがすように望んだ明治人米次郎の夢は、アメリカ女性レオニーを妻にしなかったことで、逆に、二人…

三島由紀夫賞・山本周五郎賞発表

三島賞は田中慎弥「切れた鎖」、山本賞は今野敏「果断 隠蔽捜査2」と伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」と発表。 お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

福翁自伝/福澤諭吉

愛すべき呑んべえ。 諭吉が学んだ適塾の塾風は、現在の慶應義塾の塾風*1というよりは、旧制高校の生徒に引き継がれたという感じ。 学問・言論の自由、大学の自治と権力との関係をみるとき、福澤の生き方は、一つの理念型なのだろう。 新訂 福翁自伝 (岩波文…

環境問題のウソ/池田清彦

ちくまプリマー新書という中高生向け(多分)のシリーズの一冊。地球温暖化って本当なのか、ダイオキシンの危険性ってどうなのか、ブラックバスの駆除ってどうなのよ、昆虫採集禁止って意味あるの?これは若い人が読んで、常識のように言われていること、正…

ビゴーが見た日本人/清水勲

ビゴーの風刺画百点。 ビゴーがことさら日本人の容貌の醜悪さを風刺して描いたのは、日本の非近代的側面を強調することによって条約改正が時期尚早であると主張しようとし、それには貧相と非近代化をこじつけることが最も理解されやすいと判断していたからで…

慶應三田会/島田裕巳

私はまあ特に慶應と関わり合いはないのだが。 著者ご本人は、真面目な「研究」のように書いているけど、できの悪いエッセイみたいなものだな。何でこの人がこのテーマなのというところも含めて、まあ不思議。 慶應三田会―組織とその全貌作者: 島田裕巳出版社…

生きがいについて/神谷美恵子

神谷美恵子は、恥ずかしながら坪内祐三「考える人」ではじめて知って。そんなことでもなければ、「生きがいについて」なんて気恥しいタイトルの本を手に取ることはなかっただろう。 真摯な思索の記録。著者のことをもっと知りたくなる。「考える人」で言及さ…

サーチエンジン・システムクラッシュ/宮沢章夫

芥川賞候補になった表題作のほか、「草の上のキューブ」。 「ここではありません」というドアの貼り紙とか、「生きているのか、死んでいるのかわからない、その曖昧さに耐えられるか。」とか、実学ならぬ「虚学」とか、ここはどこ、私は誰っていう感じのちょ…

全日本食えば食える図鑑/椎名誠

シーナさんの本は久しぶり。 皆が皆ということでもないが、まあだいたいがゲテモノ食いをめぐる恐ろしくもユーモラスなお話で、イソギンチャク、クラゲ、ゴカイ、蜂の子、鮒寿司なんかが登場するのだが*1、それと同列に扱われているのが、「でらうまの謎。」…

死者の奢り・飼育/大江健三郎

久しぶりに本を読む。 水槽に浮かぶ死体の移し替えのアルバイトのアイロニックな顛末 「死者の奢り」 黒人兵をペットのように飼っていた子供が逆に監禁されて… 「飼育」(芥川賞) 脊椎カリエス病棟にやってきたうさんくさい学生をめぐって 「他人の足」 事…

ハイスクール1968/四方田犬彦

著者の世代くらいまでが70年安保、東大紛争といった政治の時代に参加することのできた最後の世代だろう。庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」や村上龍「69」などもそうなのだが、何やかや言って私にはちょっと眩しく思える時代であり、世代で、私はこの頃の…

日蝕/平野啓一郎

慶事にかこつけて積読山から取り出して。終盤クライマックスは緊迫感もあってなかなかいいなと思ったけれど、擬古文とも違う工夫になじめず。 芥川賞受賞作 日蝕 (新潮文庫)作者: 平野啓一郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2002/01メディア: 文庫購入: 4人 …

大宅賞・本屋大賞など

最近、本もあまり読めず、また、情報収集もままならない。久しぶりに少しあちこちみたら、大宅賞やら本屋大賞、ちょっと前には大江健三郎賞なんてのも発表になっていたようだ。 お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 城戸久枝「あの戦争から遠く離れて」は…