HONMEMO

読書備忘録です。

アナザー1964/稲泉連

1964年の東京パラリンピックは、真に、日本の身体障害者スポーツの、というより身体障害者福祉の画期だったということがよくわかる。

十分な準備期間もなく、ほとんど素人同然の状態でいくつもの競技を掛け持ちした選手たちは、多くは「見せ物」にされるのではないかという不安を抱えながらの消極的な参加だったが、パラリンピックで主人公として扱われた経験や諸外国の選手たちの明るさに触れて、人生が大きく変わるきっかけを掴む。当時の日本の(脊椎)障害者は、施設において病人として保護される存在で、リハビリなどによる社会参加の道という考えは全くなかった。その中で、パラリンピックの開催の主役中村裕というバイタリティの塊のような整形外科医をはじめとするこの分野の先駆者の支援を得て、パラリンピックは、これに参加した人や運営に関わった人々のその後の様々な活躍や意識変容という種を撒き、日本の障害者福祉のパラダイム転換を生んだ。

美智子上皇后の一貫した理解と支援も大きかったようだ。

いま東京でパラリンピックを開催する意義は何かと考えさせられるところもある。

アナザー1964 パラリンピック序章

アナザー1964 パラリンピック序章

  • 作者:連, 稲泉
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: 単行本