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読書備忘録です。

22世紀の民主主義/成田悠輔

インターネットやSNSの浸透に伴って、分配・包摂の民主主義は劣化、「偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースター」となり、成長・占有の資本主義が加速している。しかも、民主主義国家の経済パフォーマンスは権威主義諸国より悪い。

情報通信環境が激変したにもかかわらず、民主主義の根幹をなす選挙などの政治的意思決定の仕組みは旧態依然で、機能不全を起こしていることは明らかだ。では、民主主義の今後をどう構想するか。

現システムの見直し、現システムからの逃走(自由私立都市)などもあるが、最後に著者が構想するのは無意識民主主義。これは無数のチャネルから抽出された(各論点ごとの)民意データに加え、GDP健康寿命ウェルビーイングといったデータ・成果指標を組み合わせた目的関数を最適化するアルゴリズムによる意思決定である。無意識民主主義は、民意データによる意思決定(民主主義)、アルゴリズムを設計する少数の専門家による意思決定(科学専制・貴族専制)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合であると。

この場合、政治家が担っている「調整者・実行者」としての役割は不要になり、政治・立法の顔になって熱狂や非難を引き受け世論のガス抜きをする「アイドル・マスコット・サンドバッグ」としての役割のみが残り、政治家はネコでよくなる。

大胆な提言だが、この構想は、いわばデジタル官僚制というようなものかもしれない。

かつて日本は官僚制という強力な情報収集分析システムがいわばネコのような政治家を上手く使いながら国家を運営してきた。すなわち、官僚は近視眼的な判断をしがちな民意を衆愚と嗤いつつも、様々な民意を収集するとともに、世界中の入手しうる情報を分析して意思決定を行い、政治家をアイドル・マスコット・サンドバッグとして矢面に立てて国家を運営した。官僚の不祥事や内閣人事局の設置など一連の改革で政治と官僚の力が逆転し、SNSの普及などとも相まって民主主義の劣化という現象を引き起こしているようにもみえる。本書の構想は、今力を失ったように見える官僚による意思決定システムをアルゴリズムにより代替し、最新のデジタルシステムによって個別イシューごとの民意・情報を分析して意思決定を行うデジタル官僚制という理解もできるように思う。