HONMEMO

読書備忘録です。

2007-01-01から1年間の記事一覧

氷川清話/勝海舟

エラそうな説教話だけれど、実際エラかった人なのだからまあそんなに腹も立たない。エラそーな注釈が気になるが。江藤淳・松浦玲編。 男児世に処する、ただ誠心正意をもつて現在に応ずるだけの事さ。あてにもならない後世の歴史が、狂といはうが、賊といはう…

ナラ・レポート/津島佑子

先日読んだ高木徹「大仏破壊」からのつながりで、ということでは全くないのだが。村上春樹なんかとともに芥川賞を遣り損なった人として名前の挙がる作家(だったと思う)だけれど、この人も初めて読んだ。 で、轟沈。カバー裏に「時空を飛び交い、様々な時代…

「カラ兄」を読め…高橋源一郎

高橋源一郎の「カラ兄を読め」という記事をどう読むか。「『カラマーゾフの兄弟』は『カラ兄』になっていて、しかも、その文庫の新訳が、ものすごく売れているというのである。」というのは、ひょっとして「スゴ本さん」の影響力によるものか*1? 私は学生の…

東京旅行記/嵐山光三郎

1991年上梓というので、バブルが崩壊し始めた頃のお気楽食べ歩き。2004年に文庫化されるに当たってのフォローアップ付き。 懐かしかったのは、門前仲町の魚三。今(2004年)でもあら煮が50円とは。20年前に行ったときと同じ値段だ。 散歩ガイドブックとして買…

エリザベート/塚本哲也

第一次大戦後ハプスブルク家が崩壊し、最後の皇女エリザベートは社民党に入党、「赤い皇女」と呼ばれ、その幹部ペツネックと結婚、そして…という波乱の生涯を描く。 ペツネックとの結婚に至る辺りまでの物語はエリザベートの奔放な恋物語などもあって面白い…

小林秀雄賞・続

内田樹「私家版・ユダヤ文化論」の小林秀雄賞受賞についての仲俣暁生「海難記」の記事が面白いので、リンクを張っておく。 はてなダイアリー はてなダイアリー

安倍首相辞任表明

立花隆はかねてより安倍総理の健康問題を唱えていたが(早く辞めろという文脈で)、与謝野官房長官もそんなことを言っていたようだけれども、肉体的な病気というより、心の健康問題と考えないと理解不能。 (9/14追記) 立花隆は、健康問題もあるが、週刊現代…

バン・マリーへの手紙/堀江敏幸

エッセイといっても、よくある日記風のお気楽文章であるはずもなく。何かのきっかけから文学作品などへの連想を綴るといったものが多い。メモしておこうとすると際限がなくなりそうなのだけれど、ちょこっとだけ…と思ったが、やはり結構大変そうなので、一部…

ブライトン・ロック/グレアム・グリーン

タイトルと作者の名前とそれぞれに何となく聞き覚えがあって、また丸谷才一訳ということで、読んでみた。 ちょっと調べてみて、タイトルは、クイーンの「シアー・ハート・アタック」に収められた曲のせいで、作者の名前は映画「第三の男」の原作者ということ…

瀬島龍三さん死去

95才…波瀾万丈の後の大往生だな。ご冥福をお祈りします。 臨調委員の頃の瀬島龍三って何だか不気味な威厳というかカリスマ性があったようなイメージがあるし(個人的に)、また、「沈黙のファイル‐瀬島龍三とはなにものだったのか」(タイトルあやふや)なん…

杳子・妻隠/古井由吉

巨星と目されるような日本の作家は、結構読んできているつもりだけれど*1、読んでない作家もまだまだいるのだよな。大江健三郎も読んでないし(うへ)。 今日は、古井由吉を初めて読む。現役作家の中で今一番エライというイメージ*2を勝手に持っているのだが…

小林秀雄賞

内田樹「私家版・ユダヤ文化論」が小林秀雄賞を受賞。小林秀雄賞って、もうちっと堅めのものをターゲットにしてもいいんぢゃないかという気もするが。 などといいながら、「私家版・ユダヤ文化論」は大いに気になっていた本なので、これで新古書店で見つけや…

日本の統治構造/飯尾潤

日本の政治制度を分析した著作として、真っ当な、優れたものの一つだと思う。分かり易くコンパクトにまとまっているし。 日本では一般に、大統領では大胆な権力行使ができるが、議院内閣制では抑制的な権力行使しかできないと思われている。しかし欧米での認…

大仏破壊/高木徹

ビンラディン/アルカイダが、勧善懲悪省なんてのを通じて無知無教養の*1オマル/タリバンを変質させ、バーミヤンの大仏を爆破するに至る過程が興味深いし、この地域の問題を考えるに当たって示唆するところが多々ある。 アフガニスタンの内紛状態は、9.11テロ…

生きている兵隊/石川達三

石川達三といえば、「蒼氓」とか「青春の蹉跌」とかだけれど、どちらも読んでおらず、たまたまフェアのようにして平積みされていた本書で初めて読む。 南京攻略戦をモチーフにしているのだが、大虐殺が描かれているわけではない。ただ、日本軍の軍紀の乱れは…

半島/松浦寿輝

東大教授だからかって言うとまあ嫌味っぽくはあるが、最近好きで読んでいる同じ仏文学者で芥川賞作家の堀江敏幸と比べると、小難しいところがあるとも言えるけれど、この人の作品もとてもいい。以下、あとがきの一部を引用。 男が迷い、惑い続けているうちに…

女王陛下のユリシーズ号/アリステア・マクリーン

数年前から読もうとチェックしていた作品なのだが、比較的最近「スゴ本」に取り上げられたこともあって、そそくさと読んでみた。 翻訳ものにありがちな読みにくさがあって前半は結構苦労するし、人物の背景が丁寧に描かれているわけではないので、感情移入し…

雪沼とその周辺/堀江敏幸

「スタンス・ドット」「イラクサの庭」「河岸段丘」「送り火」「レンガを積む」「ピラニア」「緩斜面」の計8編の連作短編。 この人の小説は本当にいい。何かここに書くとその余韻を損なってしまうような気がする。池澤夏樹の解説もいい(ホントそうだよって…

あの戦争になぜ負けたのか/半藤一利・保阪正康・中西輝政・戸高一成・福田和也・加藤陽子

たぶん文藝春秋誌上での座談会+αみたいなものだろうから、まあこんなものだろうって感想以上のものはないけれど、やはり、中西輝政の 「神風特攻」への若い世代を中心とした近年の関心の大きな高まりは、「鎮魂」というより「覚醒」の営みなのである。(略…

悪党芭蕉/嵐山光三郎

芭蕉自身が悪党だというより、自らのまわりに才能ある危険人物を引き寄せる魔力的な力をもつ人物だということなのだろう。下の引用でいう「流行をとらえる技をもつ者」であるということでもある。 俳句や芭蕉のことなど全くの素人なのだが、面白く読んだ。以…

赤目四十八瀧心中未遂/車谷長吉

車谷長吉をはじめて、こわごわ読む。これはやはりなかなか凄い。町田康のにおいがする(というより町田康に車谷のにおいがするというべきか。いずれにしても気のせいかもしれないが。)。町田康と違って、次々読もうという気はしない…と言いながら、また読ん…

冠婚葬祭のひみつ/斎藤美奈子

斎藤美奈子を久しぶりに読む。この人の切り口、視点は相変わらず面白い。それからやはり語り口だな(嫌いな人もいると思うけど。)。 葬式も結婚式もビジネスにうまいこと乗せられてアホなことになっている(?)ってのは、まあそんなところだなということだ…

めぐらし屋/堀江敏幸

「名作」とは言われないのかもしれない。軽〜い感じだし。しかし、こういう小説をまさに読みたかったのだ、いい時間を過ごした、という満足感がある。 つまらない思い出?そうかもしれない。でも、ひとが聞いたらなんの面白みもないようなことこそ、じつは最…

靖国問題/高橋哲哉

靖国問題は、首相が代わって参拝の仕方(というか公表の仕方)をちょいと工夫したからといって何ら解決されたものでないのはもちろんのことだ。いま中国・韓国が静かならいいってなものじゃないわな。ということで、比較的静かなときに、このような本を読む…

ぼくもいくさに征くのだけれど/稲泉連

23歳で戦死した竹内浩三の短い人生を姉の目を通して描く第1章、彼が残した詩と出会ってそれを広めていった人々の思いを描く第2章、そして竹内浩三の死地バギオを訪れる第3章。第1章が一番面白く、第3章は無い方がよっぽどマシという感じ。 竹内浩三の「骨の…

文壇/野坂昭如

野坂昭如の文章を初めて読んだ。「エロ事師たち」などの文体について、当時、「西鶴の影響がある、日本の古い語り物の血筋を引く、助詞をとっ払い行替えのない語り口は、古いようで斬新…」などとも評されたようだが、独特の文体でおそれいった。 文壇ゴシッ…

枯葉の中の青い炎/辻原登

表題作のほか、「ちょっと歪んだわたしのブローチ」「水いらず」「日付のある物語」「ザーサイの甕」「野球王」の全6編。どの短編も凝りに凝っているという感じで、贅沢な一冊。これまで読んだ辻原登の作品の中では一番良かった。 解説は鴻巣友季子。各短編…

放送禁止歌/森達也

1988年まで要注意歌謡曲指定制度という民放連のガイドラインがあって、制度廃止後も、それが事実上「放送禁止」の機能を持っていた。また指定の基準も極めていい加減であった。これは、関係者(表現の自由に特にセンシティヴであってしかるべき放送関係者)の…

気がつけば騎手の女房/吉永みち子

三冠馬ミスターシービー騎乗で有名な騎手吉永正人の妻、吉永みち子の半生記。東京外語大卒、「勝馬」入社、草創期の「日刊ゲンダイ」の競馬記者、3人の子供づれの吉永騎手と結婚…なかなか波乱の半生だが、何と言っても、ミスターシービーの母シービークイン…

河合隼雄さん逝去

特別思い入れのある方であった訳でもないのだけれど、いい顔してるなあと思っていた人。著書はごく最近エッセイを1冊読んだことがあるだけ。文化庁長官をされたのも、人柄ゆえってことなんじゃないかなと全く根拠なく思うのだけれど。 ご冥福をお祈りします…