HONMEMO

読書備忘録です。

2009-01-01から1年間の記事一覧

俘虜記/大岡昇平

分類することに意味はないが、ノンフィクションのカテゴリーに入れようとして躊躇し、教養というところにしておくことにする。本書は、自分の内面を見つめ、考える哲学の書。「米兵をなぜ撃たなかったのか」というところは読んだことがある(教科書で?)が…

人間はどこまで動物か/日高敏隆

「春の数え方」の続編。 「人間はどこまで動物か」という問いには、一本のスケール上での到達度を問題にしようとする近代の呪縛があるという。先進国・後進国、偏差値という概念も同じではないかと。(表題作) 本当の自然の草を「雑草」として刈り取り、ガーデ…

ちいさこべ/山本周五郎

表題作のほか、花筵、ちくしょう谷、へちまの木の計4作。花筵は、ストーリーが出来すぎだろって批判もあるんじゃないかと思うけど、それがどうしたって言うのさ。ハッピーエンドはちょっと臭くても赦す。ちくしょう谷も感動のお話だけど、何だかしらじらしく…

日本の近代(下)/福田和也

歴史を客観的に書くことは不可能で、すべてが○○史観だということができるのだとすれば、これも言わば福田史観。松岡洋祐や山本五十六など、一般に思われている見方と違う評価をしているところなどハッとさせられるところがあるのも楽しい。 普通選挙法が成立…

鴨川ホルモー/万城目学

途中一度壁に投げつけたくなったが、思い直して一応通読。学生時代のだらりんとした甘っちょろい雰囲気をそれなりに良く捉えているともいえるが…。最近人気の小説は10年経って生き延びているのをまって読もうと思いつつ手を出して。 鴨川ホルモー (角川文庫)…

コルシア書店の仲間たち/須賀敦子

仲間たちに注がれる穏やかな、愛情あふれるまなざし。 全集を買おうかな。 コルシア書店の仲間たち (文春文庫)作者: 須賀敦子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1995/11メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 44回この商品を含むブログ (53件) を見る 105円@BO

誰か/宮部みゆき

宮部みゆきにハズレなし。大当たりでもないけれど。ハズレの部類に入るのは、長すぎて、かつ鬱陶しい「理由」。まああとは読んでいないけど「模倣犯」かな。読まずにというのも酷いが、たぶん読むことはなかろう。遠慮しておく。 誰か―Somebody (文春文庫)作…

遠き山に日は落ちて/佐伯一麦

しみじみと良い小説だ。都会のサラリーマン生活から見ると、素朴な生活にちょっと憧れるようなところもある。登場人物も皆嫌味がなくて。離婚の頃を書いた作品は、あまり読みたいと思わないが、比較的最近の「鉄塔家族」「ノルゲ」はいずれ是非読みたい。 木…

藪の中の家/山崎光夫

副題は、「芥川自死の謎を解く」。薬物が睡眠薬ではなくて青酸カリであったというのは、(本書で後に示されるように)新発見であったわけでもないのに、もったいつけて長々と語られる。原因物質が何であったのかなんて、そもそもちっぽけな話。どちらかとい…

木/幸田文

木をあたかも人のようにみて、思いを馳せる。凛とした文章が心地よい。今このような文章の書き手は何処に?佐伯一麦の解説がこれもまたよくて。 木 (新潮文庫)作者: 幸田文出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1995/11/30メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 26回…

裁判長!ここは懲役4年でどうすか/北尾トロ

日本の裁判って、書面審理主義とか言って、丁々発止の弁論は滅多にないのかと思っていたのだが、結構やってるんだな。 裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)作者: 北尾トロ出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック:…

星を継ぐもの/J・P・ホーガン

SFはあまり読まないのだが、名作として名高い作品らしいので。 時空を曲げてとんでもなく遠くまで行けるとか、そういうのは別にいいのだけれど(というかSFの醍醐味でもあろうが)、SF作品では、つじつま合わせのご都合主義が気になることが多い。この作品で…

文明論之概略/福沢諭吉

議論の本位を定ること 自由の気風はただ多事争論の間にありて存するものと知るべし 私智、公智、私徳、公徳 日本の文明は西洋の文明よりも遅れたるものといわざるを得ず。…我文明の以て彼に及ばざるを知り、文明の後るる者は先だつ者に制せらるるの理を知る…

ホントの話/呉智英

いや、まあ、この手の言説といったらミョーだけれど、好きなんだな。上品じゃないけれど。『「支那」か「中国」か』という趙宏偉法政大学助教授との対談がなかなか面白い。 ホントの話―誰も語らなかった現代社会学 全十八講 (小学館文庫)作者: 呉智英出版社/…

日本人の美意識/ドナルド・キーン

1960年代後半から70年代初頭に発表された日本文学・芸術論。 日本人の美意識 平安時代の女性的感性 日本文学における個性と型 日本演劇における写実性と非現実性 日清戦争と日本文化 一休頂相 花子 アーサー・ウェイレー 一専門家の告白 日本人でこんなに面…

幕の内弁当の美学/栄久庵憲司

何かで薦めているのが記憶にあって。本書が書かれた30年近く前、1980年頃というと、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどと言われた時代で、矛盾を抱えつつも基本的には自信に満ちた時代だったろう。日本の経済力に対する批判に、コピーではない、日本の文化(…

かがやく日本語の悪態/川崎洋

悪態というのとは違うのもたくさんあって、まあなんだかよくわからん*1。 悪態の面白さは落語が一番だな。 解説は茨木のり子 かがやく日本語の悪態 (新潮文庫)作者: 川崎洋出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/05メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含…

猫に時間の流れる/保坂和志

…だいたい猫というのはこういう話は聞いていない。猫は人の話を聞いていたり聞いていなかったりするが、パキがいまの西井の話を聞いていなかったというのは自分が主役になっていない話だからで、… …美里さんは「猫はこっちの感情を理解する」と言い、西井は…

土を喰う日々/水上勉

焼きくわい、山芋の丸焼きって、ただ焼いているだけなんだが、うまそうだ。「食」にはいろいろな思いがこめられている。「精進」してみようかな。 土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)作者: 水上勉出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1982/08/27メディア:…

魯山人味道/北大路魯山人

後半の料理論というか、訓話というかがおもしろくないのは、その説教臭さというのもあるだろうが、やはりこういうのは、抽象的な話ではなくて、具体的にこんな料理、こんな食材が美味いという話が面白いのだな。それにしても農産物の生産技術の向上や、魚の…

よくない文章ドク本/橋本治

文学、マンガ、映画評などの雑文集。単行本として出たのが1982年ということなので、まあ30年近く前のもの。文学論、マンガ論、映画評など、桃尻調の躁病的文体で、私のような凡人には思いもよらない視点・切り口が、この人ならでは。まあ絶版になる「ナウい…

万延元年のフットボール/大江健三郎

大江健三郎は、昭和10年生まれということなので、私の親の世代。戦争、敗戦、占領、安保闘争といった経験が色濃く反映されているのだろう。同時代に生きた人により感銘を与える作品なのではないかという気がする。こういうズシンズシンくるようなのはもう最…

野川/古井由吉

本書を読んでいる最中に、実際に野川という小川が武蔵野にあるのを知って、花見がてらに行ってみた。花は盛りを過ぎていたけれど。戦時下の隅田川は今のようなコンクリだったのかどうかよくわからないけれど、野川は公園になって、たぶん昔ながらの風情が保…

本屋大賞

本屋大賞は、デビュー作での受賞ですか。10年経って、書店員の皆さんの先見の明が評価されればよいけれど…。

回想十年/吉田茂

4分冊のうちの一冊しか手に入らなかったので、あとは図書館で借りよう*1。戦後日本の礎を築いた尊敬すべき人物だと思う。近頃の人気者白州次郎とは格が違う(比べるのがヘンか)。 回想十年〈1〉 (中公文庫)作者: 吉田茂出版社/メーカー: 中央公論社発売日: …

本屋大賞ノミネート作

いつ発表されていたのか。もうすぐ大賞が決まるんですね。読んでみようかと思うのは飯嶋和一くらい。 本屋大賞

おぱらばん/堀江敏幸

三島賞をとったということのようなので、出世作ということでしょうか?この本は、「河岸忘日抄」の系譜の、エッセイだか、小説だか、評論だか、なんだろという不思議な堀江敏幸独特のもの。この人の文章は、ラストがいい。表題作「おぱらばん」の卓球のシー…

羆嵐/吉村昭

巨大な羆に襲われて6人が死亡した実際の事件に取材した小説。 「おっかあが、少しになってる」 …怖すぎる。 あらくれものの熊射ち銀四郎がハードボイルド。 羆嵐 (新潮文庫)作者: 吉村昭出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1982/11/29メディア: 文庫購入: 59人 …

アラビアの夜の種族/古川日出男

工夫も凝らしてあって、よくできた物語だとは思うけれど、この手のファンタジーは、やはり私のストライクゾーンの外にあることが改めて分かった。RPGのノベライゼイションという感じなので、ゲーム好きな若い人ははまるのだろうが。 アラビアの夜の種族〈1〉…

日本語が亡びるとき/水村美苗

インターネット時代、英語が「普遍語」となる中で、日本語は亡びるのか。「国語」の祝祭の時代が終わり、日本語は、国語から「現地語」と化すのか。「読まれるべき言葉」は英語で書かれ、「叡知を求める人」は英語を読み*1、英語で書くという方向に向かって…