HONMEMO

読書備忘録です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

警視庁科学捜査官/服藤恵三

科学捜査、捜査支援の普及に努めた著者の自伝。おそらく優秀な人で、それゆえに毀誉褒貶ある人なのであろうが、自伝とはいえ自意識過剰というか、ここまであからさまに自らの出世欲を書けるのは見事。 警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイ…

政治改革再考/待鳥聡史

平成を通じて行われた選挙制度、行政、日銀・大蔵省、司法制度、地方分権に及ぶ広範かつ大規模な政治改革は、憲法に規定される公共部門のあり方を転換する明治、戦後に次ぐ第三の憲法体制を作り出したと評価しうるもの。 このような改革の背景には、80年代に…

病魔という悪の物語/金森修

副題はチフスのメアリー。20世紀初頭のニューヨーク、腸チフスが蔓延、貧しいアイルランド移民の賄い婦メアリーは、本人に自覚の全くない中、健康保菌者として3年にわたり離島の小屋に隔離される。その後一旦は制限付きで釈放されるものの、今度は死ぬまで23…

「三代目」スタディーズ/鈴木洋仁

「三代目」は、ウジ社会(血縁のみでつながる)とイエ社会(頻繁な養子縁組によって続く)、さらにはムラ(無原則かつ繋がりがない)の交わるところに位置するがゆえに、旧弊にだけ囚われるのではないが、新しいルールにのみ従うのでもない「あてどなさ」を特徴と…

もうひとつの街/ミハル・アイヴァス

幻想のイメージについていけず、置いてけぼり 小野正嗣の書評→https://allreviews.jp/review/4237 もうひとつの街 作者:ミハル・アイヴァス 河出書房新社 Amazon

わたしが行ったさびしい町/松浦寿輝

エッセイ集。滝を見なかったナイアガラフォールズ、車の故障でやむなく泊まったアリゾナの町タクナ、その他通り過ぎただけといったような町、有名な観光地の人々の生活の場所などの思い出。 ピトレスクないわゆる観光地が、「記憶の底にいつまでも沈澱して残…

いつか来る死/糸井重里・小堀歐一郎

・食べたり飲んだりしないから死ぬのではなく、死ぬべき時が来ると食べたり飲んだりする必要がなくなる。 ・自己犠牲の精神で患者に「寄り添う」のは非常に難しい。だからこそ簡単に「寄り添う」などと言ってはいけない。 ・人は生きてきたようにしか死ねな…

エデュケーション/タラ・ウェストーバー

偏執的なモルモン教徒かつ狂信的プレッパー(サバイバリスト)であり、双極性障害を持つ父は、暴力で家族を支配する。母はどちらかと言えば父親に加担し、兄弟の何人かは家を出るが、多くはその支配を脱することができず、頼りにならない。兄の一人は父に輪を…

竹中平蔵 市場と権力/佐々木実

竹中平蔵の人物ノンフィクション。一貫して規制改革、構造改革を主導した新自由主義経済学者。竹中は、日本のアメリカ化を目指し、結果、見事にアメリカのような金融資本主義、格差社会を実現して、自らは利権により潤った。 この人がいなければ違う日本があ…

小倉昌男 祈りと経営/森健

<ネタバレ> ヤマト運輸宅急便の産みの親小倉昌男の評伝。 経営者としての手腕はよく知られているが、相談役も引いてから莫大な私財を投じてヤマト福祉財団を設立して障害者福祉に取り組んだのは何故だったのか?表面的な説明の裏には家庭の問題、特に心の病…

この1冊、ここまで読むか!/鹿島茂ほか

1冊の本を題材とした対談。鹿島茂が本と対談の相手を決めている。 ジーナ・キーティング「NETFLIX」 楠木建 更科功「絶滅の日本史」 成毛眞 「論語」 出口治明 マルクス「ルイボナパルトのブリュメール18日」 内田樹 速水融「日本を襲ったスペイン・インフル…

農ガール、農ライフ/垣谷美雨

いいお話。ただ、陳腐といっては言葉が悪すぎるかもしれないが、登場人物の造形もストーリーも型にはまっていて。 農ガール、農ライフ 作者:垣谷美雨 発売日: 2016/09/13 メディア: 単行本(ソフトカバー)

月まで3キロ/伊予原新

物理学、地質学などのモチーフが散りばめられた読後感の清々しい短編集。 著者は地球惑星科学の博士ということ。本書の中の「星六花」では気象庁職員が登場し、「山を刻む」では新田次郎の本を話題としていて、初めから編集者が新田次郎賞を狙っていたんでは…

人間の土地へ/小松由佳

K2日本人女性初登頂を果たした著者は、その後砂漠に魅せられ、シリア人青年と恋に落ち、シリアを行き来するうち内戦に巻き込まれ、結婚、日本で暮らすようになる。著者は従軍記者というわけでもないので、シリアでの体験はK2ほど切迫した危険は感じないもの…

歩いて、食べる東京の名建築さんぽ/甲斐みのり

行ったことのあるのは、取り上げられている25の建築の半分強かな。行ったことがあっても入れないところ、気がつかなかったところも多い。それから忘れているところ。東京文化会館は長いこと行っていないが、座席があんなにカラフルとは。人が座ってて分から…

13歳からのアート思考/末永幸歩

アート思考とは、自分の内にある興味をもとに、自分のものの見方で世界を捉えて探究すること。(アーティストとは、興味のタネを自分の中に見つけ、探究の根を伸ばし、表現の花を咲かせる人。) VUCA(volatility,uncertainty,complexity,ambiguity)ワールドに…

月岡草飛の謎/松浦寿輝

老俳人月岡草飛を主人公にした連作奇譚集。 織り込まれる月岡草飛の俳句や歌仙はすばらしい(勉強にもなる)のだが、月岡草飛自体はへんちくりんなので、全体としてはスラップスティックな趣がある。人違い、会場違いのとぼけた話や前作人外のモチーフも出てく…

こぐこぐ自転車/伊藤礼

事故を起こして骨折したり、お尻が痛くなってもやめられない自転車乗り。エッセイを書いた時点で古希、喜寿になってもまだ乗っているようなので立派。ユーモアほのかに楽しめる。 伊藤整の息子。と、何かにつけて言われる人生なんだろうな・・・などと。 こ…

陰謀史観/秦郁彦

陰謀史観というよりは、主として日米関係150年史の中の陰謀論を分析、検証したもの。田中上奏文、コミンテルン陰謀説、田母神史観など。陰謀論は、無節操と無責任の故にいつの時代にも栄えると。 陰謀史観 (新潮新書) 作者:秦 郁彦 発売日: 2012/04/17 メデ…

ヘンな科学/五十嵐杏南

イグノーベル賞の紹介。面白く読めるが、本家の表彰式の断片報道の面白さに負けるのは致し方ないか。 研究の自由は大事。笑い、余裕は大事。 ヘンな科学 “イグノーベル賞" 研究40講 作者:五十嵐 杏南 発売日: 2020/12/10 メディア: 単行本(ソフトカバー)

人新生の資本論/斎藤幸平

人間の活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くす地質年代「人新生」は、気候危機の時代。 資本主義の進展は、グローバルノースにおける大量生産、大量消費による豊かな生活(帝国的生活様式)と、グローバルサウスにおける搾取、環境負荷の外部化を生む。人新生は、…

家康、江戸を建てる/門井慶喜

家康の治水、造幣、上水整備、築城を主としてそれに携わった職人たちの姿を通して描く。カミさんが図書館で借りたものを拝借。 家康、江戸を建てる (祥伝社文庫) 作者:門井慶喜 発売日: 2018/11/14 メディア: 文庫

ヴィオラ母さん/ヤマザキマリ

最近TVなどでコメンテーター?のような形で重宝されているようにみえるヤマザキマリから見た母親リョウコ。夫と若くして死別し、両親とも没交渉の中で、北海道でヴィオラ奏者として女手一つで二人の娘を育てる。その生き方は破天荒というより、仔に対する愛…

戸惑う窓/堀江敏幸

窓を切り口にしたエッセイ。私は、堀江敏幸の鋭敏な感覚、観察と、難解な言葉一つない一見素直だけど詩的で厄介に感じる文章に、憧れているというべきなのかもしれない。 戸惑う窓 (中公文庫) 作者:堀江 敏幸 発売日: 2019/10/18 メディア: 文庫

歪んだ正義/大治朋子

副題は「普通の人」がなぜ過激化するのか。 過激化のステップ 1 私的な苦悩、政治・社会的不正義への疑問や怒り→確証バイアスなどによる思い込みの強化 2 ナラティブ作り 共感する物語の取り込み 3 過激化トンネル 被害者意識の形成→外集団の非人間化→不正義…

「花・ベルツ」への旅/眞寿美・シュミット=村木

「ベルツの日記」で著名なベルツの妻、「花」の生涯や一族の歴史を追うノンフィクション。1993年の上梓なので4半世紀以上も前の本。 著者自身が国際結婚をして苦労をしていて、花を調べる過程で何かと救われることがあったようだ。そんな意味で、本書は著者…

アナザー1964/稲泉連

1964年の東京パラリンピックは、真に、日本の身体障害者スポーツの、というより身体障害者福祉の画期だったということがよくわかる。 十分な準備期間もなく、ほとんど素人同然の状態でいくつもの競技を掛け持ちした選手たちは、多くは「見せ物」にされるので…

地方選/常位健一

取り上げられる地方選は、大間町、中札内村、姫島村、松野町、北山村、えりも町、上峰町の7つの首長選。 地方の首長選は、名望家、パトロンによるしがらみの政治が支配的で、多選、無投票になりがち、選挙があるとその分断が尾を引く。まあ、よく聞く話では…

女性のいない民主主義/前田健太郎

政治学において、ジェンダーは、環境、人権、民族というような政治的「争点」として扱われてきたが、本来、いかなる政治現象を説明する上でも用いることのできる視点である。ジェンダーの視点に基づく議論をこれまでの標準的な学説と対比してみると政治の世…

ロマネ・コンティ・一九三五年/開高健

1973〜78年に発表された短編集。 ベトナム戦争の虚無感が引きずられる中で食欲、酒、性、阿片などの欲望がわい雑に。 「輝ける闇」を知らない人も増えただろうな。 ロマネ・コンティ・一九三五年 六つの短篇小説 (文春文庫) 作者:開高 健 発売日: 2009/12/04…