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読書備忘録です。

ノンフィクション

空白の五マイル/角幡唯介

チベットの秘境ツァンポー峡谷、特にそのうち未踏査の五マイルの探検に魅せられた著者の冒険ノンフィクション。 特に2009年の3回目の冒険行は、08年のチベット暴動のあとの情勢変化もあって、アクシデントが多く、死の瀬戸際まで追い込まれる状況は、スリル…

私たちが子供だったころ、世界は戦争だった/サラ・ウォリス、スヴェトラーナ・パーマー

第二次世界大戦中に書かれた各国(ポーランド、ドイツ、ロシア(ソ連)、フランス、イギリス、アメリカ、日本)のティーン・エイジャーの日記を時系列に、また、一定のテーマに沿って編集したもの。 日記の内容は、それだけでそれぞれに胸を打つものだが、本…

ノーマン・ボーローグ/レオン・ヘッサー

いわゆる緑の革命の最大の功労者の伝記。 小麦、とうもろこしなどの品種改良だけでなく、政府、官僚組織との交渉、研究・普及の人材育成などに取り組み、メキシコ、インド、パキスタンなどの小麦、とうもろこしの生産量を飛躍的に拡大させた。飢餓に苦しむ数…

オオカミの護符/小倉美恵子

川崎市土橋は、今では東京のベッドタウン、閑静な住宅地だが、高度成長までは農地が広がっていた。著者はその土橋の農家の娘として育ち、御嶽神社の「オオカミの護符」を目にする。そこから、御嶽講というコミュニティーや、オオカミ信仰、山岳信仰などにつ…

日本の路地を旅する/上原善広

路地とは、被差別部落のこと。中上健次がそう呼んでいたからだという。部落出身の著者が、日本各地の路地を訪ねて、部落問題の今を問うというものでもあるのだが、一方で、著者のきわめて個人的な物語でもある。 糾弾的でもなく、淡々でもなくという本書のよ…

だまされて。/ポール・ミドラー

副題は、涙のメイド・イン・チャイナ。 米国輸入業者などと中国製造業者との仲介を行うコンサルタントである著者が見た、したたかな中国製造業者の生態。ほとんどギャグのようなエピソードばかりなのだけれど、笑うに笑えない。 だまされて。―涙のメイド・イ…

アルゴ/アントニオ・メンデス/マット・バグリオ

1979年イラン米国大使館占拠事件は、私が学生の頃の事件だが、このカナダ大使館に脱出していた米国大使館員の救出のことは全く覚えていない。しかも、ハリウッド映画のロケハン部隊に偽装して出国を図るとは、まさに小説よりも奇なり。こういう諜報機関が存…

破天/山際素男

副題は、インド仏教徒の頂点に立つ日本人。その人佐々井秀嶺のノンフィクション。インドで差別と闘う仏教の教導師だが、任侠道の親分のような感じが破天荒で面白い。胡散臭さも含めて。 結局、極めて政治的な運動になっていて、評価はいろいろあり得よう。佐…

外資系の流儀/佐藤智恵

自身のBCGの勤務経験や外資系企業社員・役員らへのインタビューによって、主として外資系企業に就職(転職)したい人に向けて、「外資系企業ってどんなところ?」を書いた本。そういうハウツー本的な意味で類書がゴロゴロしている気がしないでない。何かどこ…

風をつかまえた少年/ウィリアム・カムクワンバ/ブライアン・ミーラー

マラウィの平均的かやや裕福な(?)農家に生まれた少年カムクワンバ君。勉強をして農家の厳しい暮らしから抜け出したいという夢は、大飢饉で学費が払えなくなり、失われたように見えた。そんな中で図書館で見つけた本をヒントにガラクタを集めて発電のため…

黒檀/リシャルト・カプシチンスキ

池澤夏樹編集の世界文学全集の1冊。1998年に上梓されたものの本邦初訳。アフリカのルポルタージュで、小説ではないが「間違いなく文学である。」として全集に採られている。池澤夏樹は、ノンフィクションよりルポルタージュの方が、著者その人の思想や完成が…

やせれば美人/高橋秀実

テーマと離れて、奥さんに対する著者の愛情というか、円満な夫婦の姿というかを読む本のような気もする。 やせれば美人 (新潮文庫)作者: 高橋秀実出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/08/28メディア: 文庫 クリック: 18回この商品を含むブログ (22件) を見る

復讐するは我にあり/佐木隆三

カポーティー「冷血」のようなものをという編集者の依頼に基づいて、昭和38年の実際の事件に取材して書かれたノンフィクション・ノベル(昭和50年書き下ろしたものの改訂新版)。*1 主人公は、5人殺しの凶悪犯だが、詐欺の手口が弁護士を騙ったりして大胆で…

フェルマーの最終定理/サイモン・シン

フェルマーの最終定理の証明に至るまでの3世紀にわたる数学者たちの苦闘。私のような素人に、その証明が分かるわけはないのだが、その筋道は少なくとも分かったような気にさせるところがすごい。谷山・志村予想などのほか、日本人数学者が貢献していることも…

ネットと愛国/安田浩一

在特会というのもあまり知らなかったが、まあネトウヨの大宗がおそらくそうであるように、思想信条なんかより、単に鬱憤晴らしをしたいだけというとんでもなく傍迷惑な輩ということのようだ。それがみじめな承認欲求の仕向けるところであるとして、それを承…

眠れない一族/ダニエル・T・マックス

遺伝性のプリオン病である致死性家族性不眠症(FFI)というのは知らなかった。イタリアで40家族くらいというのだからそんなものかもしれないが、CJD、vCJD、BSE、スクレイピーなどのほかにも、インドネシアのクールーなど様々なプリオン病がある。その謎の解…

黒澤明vs.ハリウッド/田草川弘

トラ・トラ・トラ!は、小学校のころ、はじめて映画館で見た映画。黒澤明が監督を解任されて騒ぎになっていたことはちっとも知らなかった。綿密な調査をもとに、渉外担当青柳と黒澤との間のミスコミュニケーションと重圧下での黒澤の精神状態が招いた悲劇を…

「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー/高橋秀実

脱力系、ぐふふ系ノンフィクション。 週に1日3時間しかグラウンドを使う練習ができないチームが勝つための戦略とは…ということで、開成高校ならマネーボールのようなデータ野球か、何か知力にものを言わせたセオリーに基づく戦略を立てるのかと思えば、さに…

インパラの朝/中村安希

2年近くにわたるアジア・アフリカバックパック旅行で、考えたこと、感じたこと。 開高健ノンフィクション賞の選考委員の言葉が帯にあって、「独特な傲慢な切れ味」「いわば、啖呵を切りながら旅をしてきたのだ。」などとある。女性一人でこのような旅行をす…

絵はがきにされた少年/藤原章生

「ハゲワシと少女」でピュリッツァー賞を受賞したカメラマンの自殺、ルワンダの虐殺についての取材などサブサハラ、南アでの人物取材によるノンフィクション。ただ、著者の感じたことや考え方を述べるウェイトが高く、ノンフィクションというよりはエッセイ…

でっちあげ/福田ますみ

副題は、福岡「殺人教師事件」の真相。モンスター・ペアレントとマスコミによって体罰・いじめ教師に仕立て上げられた教師についてのノンフィクション。ここでとりあげられるマスコミの態度は、心底吐き気をもよおすものだが、これは、本件に特異的なもので…

北の無人駅から/渡辺一史

「こんな夜更けにバナナかよ」から8年半になるそうだ。著者自身、本書を第2の処女作と位置づける力作。 北海道の無人駅をきっかけとして、その周辺の地域の実際とそこに暮らす「人」を描く。綿密な取材と著者の人柄がにじみ出る文章で、説得力がある。 「駅…

ある明治人の記録/石光真人編著

副題は、会津人柴五郎の遺書。会津藩は、明治維新に際して朝敵として討伐され、下北に移封される。著者はその頃まだ幼く、祖母、母、姉は自刃、下北では、極寒極貧の生活を強いられる。その後、様々なつてを頼って陸軍幼年学校(の前身)に入学し、のちに陸…

ハーバード白熱日本史教室/北川智子

ハーバード白熱教室といえば、サンデル教授のコピーだが、サンデル教授の教室がディベートによって白熱するのに対し、北川講師(?)の教室は、エンタメ・プレゼン能力の競争により白熱する。特に、KYOTOの講義がそうだが、著者自身、「日本史」を教授するこ…

日本を降りる若者たち/下川裕治

日本から逃避してタイバンコク(カオサン)で引きこもる若者ら*1を批判的な視線で描いている。 特段何も。 日本を降りる若者たち (講談社現代新書)作者: 下川裕治出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/11/16メディア: 新書購入: 7人 クリック: 129回この商品を…

赤めだか/立川談春

立川談志の弟子、談春が真打ちになるまでの自伝。新作の人情噺を聞いているかのよう。 赤めだか作者: 立川談春出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2008/04/11メディア: ハードカバー購入: 30人 クリック: 195回この商品を含むブログ (293件) を見る

サンダカン八番娼館/山崎朋子

副題は底辺女性史序章。極貧のかつての「からゆきさん」と3ヵ月寝食をともにした取材をもとにしたノンフィクション。高度成長前夜までこういうとんでもなく貧しい悲惨な生活が普通にあった。現代の貧乏なんて知れたものとは言わないけれど。 第4回大宅壮一ノ…

クォン・デ/森達也

ヴェトナムの溥儀のような存在になったかもしれなかったクォン・デを追うノンフィクション。情報が少ないためもあるのだろうが、クォン・デ自身のことよりも、その周辺事情のことや著者の取材自体のことなどの記述がやたら多いし、内容自体もこれは小説か?…

一万年の旅路/ポーラ・アンダーウッド

ユーラシア大陸を横断し、ベーリング海峡(陸橋)を渡り、さらにアメリカ大陸を横断してオンタリオ湖畔に達した、一万年に及ぶネイティブ・アメリカン(イロコイ族)のオーラル・ヒストリーです。 一万年の歴史ということで、八岐大蛇やらのように民族の神話と…

外交五十年/幣原喜重郎

口述筆記によるもの。外交の内幕を覗く面白さというのもあるけれど、むしろ歴史とは直接関係しないちょっとした小ネタがなかなか面白い。 外交五十年 (中公文庫BIBLIO)作者: 幣原喜重郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2007/01メディア: 文庫 クリック…

オーパ!/開高健

「輝ける闇」、「夏の闇」(未読)、あるいは芥川賞の「裸の王様」などより有名かもしれません。実際、高橋昇の素晴らしい写真と相俟って、これが生命(力)だ!という感動(カバーのピラーニャの写真の迫力はどうでしょうか。)あるいは人間の原点にある活力…

昭和16年夏の敗戦/猪瀬直樹

昭和16年、ベスト・アンド・ブライテスト(?)を集めた総力戦研究所が組織され、その机上演習で敗戦という結果を得ていた一方で、政府・軍部では、南方油田の産油量を甘く見積もったり、制海権が奪われることによって石油の輸送が途絶することなどを考慮に…

外交回想録/重光葵

第一次大戦勃発から太平洋戦争開戦前夜までの重光葵の回想録。古谷綱正に口述筆記させたものです。重光葵といえば、ミズーリ艦上での降伏文書調印式の映像が印象的ですが、本書の対象となった時期以降、調印式までの記録は別に刊行されているようです。 戦犯…

蟻の兵隊/池谷薫

北支派遣軍第一軍の将兵のうち約2600人は、敗戦後も3年以上にわたり軍閥の部隊に編入されて共産軍と闘った。彼らは除隊後志願兵となったとの扱いで、補償、恩給が受けられないなどの不利益を受け、係争中だという。 その法的関係がどうかということをおいて…

チベット旅行記/河口慧海

明治30年代、サンスクリット経典の原型をとどめるチベット経典を求めて鎖国チベットに潜入した著者の旅行記です。100年前の単独ヒマラヤ越えはただでさえ過酷であろうことは想像に難くないのですが、鎖国をしている国に潜り込むために間道を抜けようとするた…

星新一/最相葉月

遺品の整理なども含めた綿密な取材によって書かれた星新一の評伝です。政治にも深く関わりを持った実業家、星製薬創業者の父星一も、堤康次郎を彷彿とさせる昨今なかなか見られない興味深い大物ですが、星新一は堤兄弟とは違って、会社は潰してしまいます(…

田中角栄の昭和/保阪正康

ロッキード事件が喧しかったのは高校・大学の頃です。立花隆の田中角栄研究をはじめ、氏のハイライトである田中追及・告発記事はセンセーショナルでした(あまり読んでいませんでしたが)。本書は、その頃から30年ほどが経って書かれたということもあって、落…

冷血/トルーマン・カポーティ

カンザス州で起きた一家4人の惨殺事件の犯人二人の生い立ちから絞首刑に至るまでを詳細に描いたノンフィクションです。 本書もそうですが、Dainさんの「スゴ本100」からいくつか読んでいこうと思っています。犯罪者を扱ったノンフィクションという意味では、…

滝山コミューン一九七四/原武史

日教組系の全国生活指導研究協議会の唱える「学級集団づくり」によって、著者の通う七小は、民主集中制の「滝山コミューン」となった。相当におどろおどろしいもので、「追求」といった自己批判の強要のようなところまでいくと背筋が寒くなりますが、当時、…

貧困大国アメリカ/堤未果

9・11以後のアメリカの新自由主義的政策は、格差を拡大することによって、医療や教育など様々な矛盾を拡大しているし、貧困層のリクルートを容易にして戦争の遂行に利用するという政策目的にもつながっていると。 言いたいことはわかりますが、文章が余りに…

誘拐/本田靖春

吉展ちゃん事件に取材した作品です。 ディテールの書きこみ方が素晴らしく、どんな警察小説よりも面白いです。 被害者サイドよりも、貧困の中で障害を持って育った犯人小原保の心情に寄り添う書き方になっていると言えると思いますが、本書は「被害者」対「…

ニッポンの単身赴任/重松清

単身赴任生活を送っているお父さん、あるいはその妻のルポルタージュです。重松清が書くということで、だいたいの雰囲気はわかってしまうというところがありますが、やはり十人十色ということではありますね。 ニッポンの単身赴任 (講談社文庫)作者: 重松清…

がんと闘った科学者の記録/戸塚洋二(立花隆編)

ノーベル賞受賞者小柴昌俊さんの弟子で、ノーベル賞に一番近い日本人と目されていた方だそうです。 骨の髄まで科学者だった人だということがよくわかります。 最後の最後まで、なにか社会に貢献できないかと追及する姿勢に感じ入るばかりです。2009年4月予定…

藪の中の家/山崎光夫

副題は、「芥川自死の謎を解く」。薬物が睡眠薬ではなくて青酸カリであったというのは、(本書で後に示されるように)新発見であったわけでもないのに、もったいつけて長々と語られる。原因物質が何であったのかなんて、そもそもちっぽけな話。どちらかとい…

ミカドの肖像/猪瀬直樹

ミカド/天皇というキーワードで、宮家の土地を買い漁った堤康次郎、サボイオペラ「ミカド」、御真影という話を無理やりくっつけようとして、意味不明に陥っているような気がしないでもない。 辻井喬の「父の肖像」も読んでみようかな。「彷徨の季節の中で」…

中村屋のボース/中島岳志

チャンドラ・ボースの方が有名だけど、中村屋インドカリーもボースさんでしたか。名物ナイルレストランのナイルさんもちらっと登場。中村屋のボースは、日本に帰化したインド独立運動家。アジアの解放者の顔と西洋帝国主義者の顔を併せ持つ日本に翻弄された…

戦争広告代理店/高木徹

これも「NHKスペシャル」の取材がもととなった本。一国のメディア対策に(さらにはそれを越えて)民間のPR企業が大きな役割を果たすということ自体が驚きだが、伝える側のメディアの使い方とともに、メディア・リテラシーについてもつくづく考えさせられる。…

心にナイフをしのばせて/奥野修司

被害者は高校1年生。加害者は、同級生。被害者の家族は、その死がトラウマとなって長く悲惨な生活を送る一方、加害者は、少年法に守られて、弁護士となるも、被害者に謝罪もせず、補償金も払わない。弁護士ってのがアイロニックで、小説よりも奇なり。 被害…

在日/姜尚中

姜尚中の半生記。 民族、国民、国民国家なんてものを考えるとき、ともすると、民族=国民=国家と考えてしまうことがあるので、(アイヌというのもあるけれど)在日の存在は、グローバリゼーションの進む国際社会の中で日本が普通の国*1かどうかを観察する上…

イサム・ノグチ/ドウス昌代

《私は東洋と西洋の二つの世界の融合である。そして、さらには両世界を超越する存在でありたい。》 とイサムはつねに願った。 かつて日米を制覇したいと胸をこがすように望んだ明治人米次郎の夢は、アメリカ女性レオニーを妻にしなかったことで、逆に、二人…