HONMEMO

読書備忘録です。

ノンフィクション

ノマド/ジェシカ・ブルーダー

著者自身、RV(日本でイメージするRVというよりは、大型のバンやキャンピングカー)を買って3年間にわたりアメリカの車上生活者(ワーキャンパーwork+camp)を取材したルポ。短期の雇用を求めて全米を移動するワーキャンパーは、高齢、シングルの白人が多いよう…

政治学者、PTA会長になる/岡田憲治

PTAは停滞する日本の社会、組織の縮図のようなところがある。日本の自治、「半径10メートルの民主主義」の現場でもある。 前例主義(引継が大変!)、点数主義(ポイント制)などに絡め取られて身動きができず、みんなおかしいと思っているのに変革することがで…

AI監獄ウイグル/ジェフリー・ケイン

原題は、「完全警察国家」で、副題を含めてAIという文字もウイグルという文字もないが、このタイトルの方が分かりやすい。 中国では特に新疆ウイグル自治区で恐るべき監視網が構築されている。これには顔認証などAI、最先端技術が用いられているが、その技術…

狩りと漂泊/角幡唯介

グリーンランドをフィールドに、目的地を定めて計画的に旅をするのではなく、狩りをしながら旅をする(漂泊)。 ある時、犬橇で旅するといいとめざめる。食料の見通しが立たないまま先に進むことができないという一線を越えるために。 文章がくどく、説明的に…

最後の砦となれ/大岩ゆり

ダイヤモンドプリンセス乗客の受入れから新型コロナ感染症医療に積極的に取り組み、「最後の砦」と評された藤田医科大学のドキュメント。 最後の砦たるに必要な要素は何かを5つのポイントにまとめているが、もっとざっくりいうと、臨機応変、連携、経験とい…

おもちゃ/常井健一

河井案里の半生を取材したノンフィクション。メールのやり取りも頻繁に行われていたようで、河合という人の人となりがよくわかる。 河合は、実家への手紙に「政治の世界において一目おかれる、ということは、ある意味、政局のおもちゃ(別のところでは「権力…

mRNAワクチンの衝撃/ジョー・ミラー

ドイツのバイオ企業ビオンテックのmRNAワクチンの開発を追うノンフィクション。 世界で最初に開発・実用化された新型コロナウィルスワクチンであるファイザー社のワクチンは、ビオンテックが開発、ファイザーが製造・使用許諾を取って特許権使用料を払って販…

ドナルド・キーン自伝

2006年読売新聞に連載され中公新社から出た「私と20世紀のクロニクル」に日本国籍取得決断の記などを加えた増補版。 氏の日本文学に対する愛情の深さは計り知れない。だからこその研究実績であり、また、「教師として私の出来る一番大事なことは私の情熱、私…

保身/藤原雅

積水ハウスの地面師事件とその後の人事抗争、株主代表訴訟を追うノンフィクション。 地面師事件は、当時の阿部社長の前のめりの姿勢と"社長案件"としての忖度などから、当然のチェックが働かずに生じたもので、最大の責任は阿部にあるにもかかわらず、阿部は…

四国辺土/上原善広

著者は同和出身者で著書に「日本の路地を旅する」という大宅壮一ノンフィクション賞作がある。本書はその延長という面もある。 四国遍路は、巡礼の道というほかに、故郷を追われた困窮者が最後に頼れる一種のセーフティネットのようなところがあり、辺土とも…

金融庁戦記/大鹿靖明

大蔵省→金融庁キャリア佐々木清隆氏の人物評伝だが、我が国金融・証券不祥事、監督の振り返りになっている。 佐々木氏は毀誉褒貶あるようだが、官僚としてちょいと変わっているにしても、面白そうな人物に思える。 金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件…

悪魔の細菌/ステファニー・ストラスディーほか

超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦いという副題どおり。 超多剤耐性菌(スーパーバグ)に感染し、もはや手の施しようがないとみられた夫を救うため、疫学者である著者は、論文をあたり、まだ実験段階と言ってよいバクテリオファージによる治療に可能性を見…

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック/パイパー・カーマン

ドラッグの運び屋に手を染めて13ヶ月女子刑務所に入った女性の獄中記。刑務所にもいろいろあるようなので一概に言えないようだが、もちろんいろいろ拘束されて大変ではあるものの、思いのほか融通が効くんだなという印象。 NETFLIXは1話だけ見たが、続きはそ…

闇の脳科学/ローン・フランク

今から50〜70年ほど前、脳深部刺激療法を開発し、精神医学・脳神経医学の分野で一世を風靡したロバート・ヒースという科学者・医師がいた。マッドサイエンティストとの批判を浴び、今では全く忘れ去られた存在に(忘れ去られることとなる直接の原因は、意外な…

大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件/カーク・ウォレス・ジョンソン

マレー諸島などで鳥類を研究、標本を大英博物館に送り、進化論の確立に貢献したアルフレッド・ラッセル・ウォレスの事績、 大英博物館の標本の疎開先ともなったトリング博物館の主ウォルター・ロスチャイルドの偏執的な生物標本収集、 ヴィクトリア時代の羽…

闇の盾/寺尾文孝

違法行為には手を染めていないとはいうが、本人がそう思っているだけで、その時代のコンプラ意識の下ではお目こぼしになっていたという話や、語られていることが真実なら立派に違法行為(のもみ消し)に手を貸しているのではないかというものもあるような。 地…

起業の天才!/大西康之

江副浩正の評伝。江副浩正という人物、彼が作り育てたリクルートという会社は、相当にいかがわしい面を持っている(江副と親交があり、一時会長を務めたダイエー中内は、社員を集めて、いかがわしくていいんだ、もっといかがわしくなれ!と訓示する)。一方、…

Weの市民革命/佐久間裕美子

株主利益の最大化を図るのでなく、従業員、コミュニティ、サプライヤー、ベンダー、顧客なども含めた全てのステイクホルダーとともに価値を共有する資本主義、ステイクホルダー・キャピタリズムへのシフトが重要であり、その実現に向けて様々な活動が始まっ…

令和元年のテロリズム/磯部涼 

川崎(登戸)殺傷事件、元農林水産省事務次官長男殺害事件、京都アニメーション放火殺傷事件などの令和元年の事件は、「引きこもり」、高齢化社会、80/50問題などの政治的問題を社会に突きつけた広義のテロリズムであり、高齢ドライバー暴走致死傷事件なども含…

もしわたしが「株式会社流山市」の人事部長だったら/手塚純子

組織内の人と言いにくい人を「育成」するという言い方が不遜な感じかするのかな。 やってることは、各地で広がりつつあるコミュニティ活動の一類型なのだろう。何事も楽しく取り組むというのはこれからの活動のキーワード。 もしわたしが「株式会社流山市」…

廃炉/稲泉連

福島に一生とどまることを希望するキャリア官僚、デブリの取り出しなどに取り組む技術者、食堂などのバックヤードで働く人々や作業員、入社と同時に加害者となる東電新人社員、それぞれの複雑な思いの中の誇りと使命感。 事故の責任は東電にあり、批判され、…

分水嶺/河合香織

SARS、新型インフルエンザなどの経験がありながら、危機管理体制が不十分だった(政府側の言い方では危機管理を重要視する文化が醸成されてこなかった)ために、新型コロナの初期対応において、専門家たちはリスク分析・評価の役割を超えて「前のめりに」行政…

警視庁科学捜査官/服藤恵三

科学捜査、捜査支援の普及に努めた著者の自伝。おそらく優秀な人で、それゆえに毀誉褒貶ある人なのであろうが、自伝とはいえ自意識過剰というか、ここまであからさまに自らの出世欲を書けるのは見事。 警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイ…

エデュケーション/タラ・ウェストーバー

偏執的なモルモン教徒かつ狂信的プレッパー(サバイバリスト)であり、双極性障害を持つ父は、暴力で家族を支配する。母はどちらかと言えば父親に加担し、兄弟の何人かは家を出るが、多くはその支配を脱することができず、頼りにならない。兄の一人は父に輪を…

小倉昌男 祈りと経営/森健

<ネタバレ> ヤマト運輸宅急便の産みの親小倉昌男の評伝。 経営者としての手腕はよく知られているが、相談役も引いてから莫大な私財を投じてヤマト福祉財団を設立して障害者福祉に取り組んだのは何故だったのか?表面的な説明の裏には家庭の問題、特に心の病…

人間の土地へ/小松由佳

K2日本人女性初登頂を果たした著者は、その後砂漠に魅せられ、シリア人青年と恋に落ち、シリアを行き来するうち内戦に巻き込まれ、結婚、日本で暮らすようになる。著者は従軍記者というわけでもないので、シリアでの体験はK2ほど切迫した危険は感じないもの…

ヘンな科学/五十嵐杏南

イグノーベル賞の紹介。面白く読めるが、本家の表彰式の断片報道の面白さに負けるのは致し方ないか。 研究の自由は大事。笑い、余裕は大事。 ヘンな科学 “イグノーベル賞" 研究40講 作者:五十嵐 杏南 発売日: 2020/12/10 メディア: 単行本(ソフトカバー)

ヴィオラ母さん/ヤマザキマリ

最近TVなどでコメンテーター?のような形で重宝されているようにみえるヤマザキマリから見た母親リョウコ。夫と若くして死別し、両親とも没交渉の中で、北海道でヴィオラ奏者として女手一つで二人の娘を育てる。その生き方は破天荒というより、仔に対する愛…

「花・ベルツ」への旅/眞寿美・シュミット=村木

「ベルツの日記」で著名なベルツの妻、「花」の生涯や一族の歴史を追うノンフィクション。1993年の上梓なので4半世紀以上も前の本。 著者自身が国際結婚をして苦労をしていて、花を調べる過程で何かと救われることがあったようだ。そんな意味で、本書は著者…

アナザー1964/稲泉連

1964年の東京パラリンピックは、真に、日本の身体障害者スポーツの、というより身体障害者福祉の画期だったということがよくわかる。 十分な準備期間もなく、ほとんど素人同然の状態でいくつもの競技を掛け持ちした選手たちは、多くは「見せ物」にされるので…