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読書備忘録です。

踏み出す一歩は小さくていい/河野理恵

ケニアでアパレル関係で起業した著者の成功譚。爽やかな幸福感を共有できる。著者には成功に至る様々な好条件、環境があったと言えようし、幸運に恵まれたという面もあるだろうが、とにかく踏み出すということ自体が凡人にはなかなかできないというところだ…

読んでない本について堂々と語る方法/ピエール・バイヤール

2007年上梓のベストセラー。 本について語ることは、自分自身について語ることだ。だから、読んでいなくても語ることができる。 大事なのは、作品と自分自身の様々な接点であり、作品のタイトル、「共有図書館」(その本を含むある文化の方向を決定づけている…

書かれる手/堀江敏幸

あとがきで、著者は、要旨次のように言う。 私の関心は、本質に触れそうで触れない漸近線への憧憬を失わない書き手に向けられている。問題は、その憧憬に適切な形を与える能力が欠けていることで、出来上がった文章は「評論」にも「エッセイ」にも「解説」に…

神の方程式/ミチオ・カク

村山斉の「宇宙は何でできているのか」もそうなのだが、わたしがざっくりでいいからこれを人に説明できるかというと、これは全く無理で、分かった気でも分かってはいない。それでもまた似たような本に手を出すだろう。 "真空は単なる無の状態ではなく、実は…

論語と算盤/渋沢栄一

維新後、有為の人は政治家となり、商業に従事する者は下に見られた。武士階級は、論語をはじめいわゆる武士道の教育を受けてきたが、商人はそのような教育はなされなかった。渋沢は、商業の発展に尽くすが、その際、仁義道徳の重要性を説く。その論拠とされ…

わたしのなつかしい一冊/池澤夏樹編

池澤夏樹編の50人による懐かしい本にまつわるエッセイ。掌編集かと思ったら書評・エッセイ集だった。 わたしのなつかしい一冊 作者:池澤 夏樹,小島 慶子,川本 三郎,辛酸 なめ子,山内 マリコ,高村 薫,若松 英輔,小島 ゆかり,瀬浪 貞子,益田 ミリ,養老 孟司,江…

ヘルシンキ 生活の練習/朴沙羅

ヘルシンキに幼児2人を連れて単身移住した著者によるエッセイ。関西弁とは関係なく、文体が好みでないためか、頭に入ってこない。 フィンランド人は、人間の性格や性質について、いいところと悪いところという発想がなく、練習が足りているところと足りてな…

ファクトフルネス/ハンス・ロスリングほか

様々なバイアス、思い込みで、人は多くの事柄について勘違い、間違った理解をしていることが多い。データをもとに事実に基づいて世界をみる必要性を説く。 事実に基づいて世界をみる必要性は十分理解しているつもりだが、それでも私の理解はチンパンジー以下…

空へ/ジョン・クラカワー

難波康子を含む6人の死者を出したエベレストでの遭難事故の同行ジャーナリストによる詳細な記録。盛んになり出した商業的な公募隊の問題点をレポートするという目的があったが、著者は、参加した営業公募隊のメンバーの能力を評価し、資格不十分な者はむしろ…

掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

これは日本文学が得意とする(した?)カギ括弧付きの私小説ではないか。アメリカ文学でこういうのは珍しいのかもしれないなと思う。いやアメリカ文学なんてそんなに読んでいないので分からないけれど。 掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集 (講…

オールドレンズの神のもとで/堀江敏幸

2004年〜2015年頃にかけて、さまざまな求めに応じて発表された小編18編。 「私の場合、執筆の動機はつねに注文であり、言葉の自発性はそのあとからついてくるので、いったん作品ができあがると出発時の負荷がなくなって、なぜこんな書き方をしたのか理解でき…

「歴史の終わり」の後で/フランシス・フクヤマ、マチルデ・ファスティング編

フクヤマの業績を網羅的に取り上げ、対話形式で平易に提示する書。「歴史の終わり」は趣旨は知っていたが未読だったので読むかどうか迷ったが、同書を読まずとも私には本書で十分かな。 ・権威主義的政府を倒すことができても、民主主義的制度を実際に立ち上…

モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語/内田洋子

イタリア北部の山の中の過疎の村モンテレッジオ(現人口32人)は、多くの人が本の行商で生計を立ててきた歴史を持つ。重いし、誰にでも売れるというものでもない「本」を担いで売り歩く?そういう面ももちろんあったのだろうが、基本的には都市に出て露天商と…

パキスタンへ嫁に行く/わだあきこ

著者は写真家。1995年の上梓。 パキスタン北西部、アフガニスタン国境に近いヒンドゥークシ山脈に抱かれた谷に暮らすカラーシャ族の祭りなどその習俗を取材するうちに半分現地で暮らすようになり、現地の人と結婚。 カラーシャ族の人々は、非イスラムで独自…

新冷戦時代の超克/片山杜秀

2018年の口述をもとにした本。 日本にとってのリアルな問題は、憲法より日米同盟。集団的自衛権が解釈でOKになって、憲法改正の必要性は低下。むしろ改憲案が国民投票で否定されたら自衛隊の否定に繋がりかねないという危険な賭け。中国に対しても米国に対し…

映画を早送りで観る人たち/稲田豊史

思いの外まとも(失礼)な本だった。 映画などを早送り、スキップして見る人が増えている。その要因には、定額配信サービスの普及がある。 SNSによる共感強制が、セリフですべてを説明するような「わかりやすい」作品の増加につながっている。 こういう見方を…

ブルシットジョブ/デヴィッド・グレーバー

ブルシットジョブとは、 「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないと感じている。」 ブル…

不思議の国ニッポン/クーリエ・ジャポン編

取り立てて新しい気づきなし。 扱われている記事は2016〜2021年 海外メディアは見た 不思議の国ニッポン 新しい世界 (講談社現代新書) 講談社 Amazon

サイエンス・インポッシブル/ミチオ・カク

SF小説で取り上げられるタイムトラベルやテレパシーなどは実現可能か、を最先端物理学で検証する。その困難さの程度によって、不可能レベル1から3に分類しているのだが、永久機関のような既知の物理法則に反するテクノロジー(レベル3)であっても絶対不可能と…

力なき者たちの力/ヴァーツラフ・ハヴェル

チェコ初代大統領となったハヴェルによるパンフレット。反体制運動「憲章77」の直後、78年の出版。その後も弾圧を受けて、ビロード革命に結実するのは89年だ。 東欧型権威主義的中央集権体制(ポスト全体主義)のイデオロギーに沿った「嘘の生」ではなく、アイ…

道徳教室/高橋秀実

ドイツでは一人一人に考えさせるが、日本の道徳教育は、みんなで考え、決めつけない。これはかつての価値観の押し付けが戦争を引き起こしたという過去の反省によると。 道徳性とは、自分を客観視すること、自分の中にいる第三人称の自分から自分を客観的に見…

アーネスト・サトウの明治日本山岳記

サトウとホーズとの共編著「中央部・北部旅行案内(明治日本旅行案内)」とサトウの「日本旅行日記」から山岳に関する記述を編訳したもの。 前者は実務的で面白みがないが、後者はサトウの目から見た批評(案内人がろくでもないとか)があって、それなりに楽しめ…

事実はなぜ人の意見を変えられないのか/ターリ・シャーロット

人は自分の信念を裏付ける証拠はすぐに受け入れるが、反対の証拠はなかなか受け入れようとしない(確証バイアス)。したがって、反対の意見を持つ人を説得しようとするときは、間違っているという証拠を突きつけるのではなく、共通点に基づいて話をするのが効…

無月の譜/松浦寿輝

著者らしらかぬ、というのも変な言い方だが、リーダビリティの高いエンタメど真ん中の分かりやすい小説。 奨励会で挫折した主人公の大叔父は、駒師としての志半ばにしてシンガポールで戦死。主人公は、大叔父「玄火」作の「無月」の駒が残されていないかを追…

知ってるつもり/スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック

人間個人の知識は自分が思っているより限られており(知識の錯覚)、様々な外部コミュニティの知識を共有することで、知っているつもりになっている。このような自身の無知の自覚のなさが、フェイクニュースの流布など、不合理な判断や行動を生む。コミュニテ…

生かされて。/イマキュレー・イリバギザ、スティーヴ・アーウィン

1994年のルワンダの大量虐殺を生き延びた著者の独白録。2006年の上梓。当時、映画ホテルルワンダほどでないにしても話題になった本だが、たまたま図書館で目に入って。少年少女に語りかけるような柔らかな文章だ。 虐殺の嵐の中を狭いトイレに3ヶ月もの間こ…

忘れない味/平松洋子 編著

平松洋子が編んだ食にまつわる掌編集。短編小説、エッセイだけでなく、詩や俳句、漫画も。どの文章もそれぞれに印象に残る。と言ってすぐ忘れるのだけれど。 忘れない味 「食べる」をめぐる27篇 作者:平松 洋子 講談社 Amazon

室町は今日もハードボイルド/清水克行

中世が基本的に自力救済、分権・多元的、呪術的な世界であることなどを、分かりやすいエピソードをもって語る。 室町は今日もハードボイルド: 日本中世のアナーキーな世界 作者:清水 克行 新潮社 Amazon

ノマド/ジェシカ・ブルーダー

著者自身、RV(日本でイメージするRVというよりは、大型のバンやキャンピングカー)を買って3年間にわたりアメリカの車上生活者(ワーキャンパーwork+camp)を取材したルポ。短期の雇用を求めて全米を移動するワーキャンパーは、高齢、シングルの白人が多いよう…

政治学者、PTA会長になる/岡田憲治

PTAは停滞する日本の社会、組織の縮図のようなところがある。日本の自治、「半径10メートルの民主主義」の現場でもある。 前例主義(引継が大変!)、点数主義(ポイント制)などに絡め取られて身動きができず、みんなおかしいと思っているのに変革することがで…