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読書備忘録です。

本当の戦争の話をしよう/伊勢崎賢治

シエラレオネ、アフガニスタン、東チモール、カシミールなどでの武装解除や停戦監視の現場経験を踏まえての福島高校の生徒との対話。 紛争を解決し、平和を維持するという観点からは、正義や人権も絶対的価値ではなく、相対的なものと捉えざるを得ないのでは…

彼女たちの場合は/江國香織

かみさんの本棚から。江國香織は初めてではないかな、と思ったら、きらきらひかるを読んでいた。 17歳の逸佳は、留学生として14歳の従妹礼那のニューヨークの家から学校に通うが、思い立って礼那と2人西部に向けて旅に出る。家出ではないと置き手紙をして。…

香港陥落/松浦寿輝

物語は、日本による香港占領にまつわる3人の食事場面6回(前半3回、後半side-B3回)で構成。 前半は、外交官を辞めて小さな新聞社の記者をしている日本人谷尾の視点で語られる、香港の中国人貿易商黄、香港政庁をやめてロイターに勤めている英国人リーランドと…

木琴デイズ/通崎睦美

平岡養一は、明治40年、実業家の長男として生まれ、音大でなく、慶應で学び、木琴の黄金時代を迎えつつあった米国で活躍、日米交換船で帰国後、日本における木琴時代(デイズ)を牽引、国民的音楽家となった。戦後再び米国へ渡るも、その頃からマリンバの人気…

なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか/伊藤剛

本書の前に読んだ高橋源一郎「僕らの戦争なんだぜ」に続いて、戦争を伝えることについて。 タイトルはややソッポ。 そもそも平和教育とは何か?戦争体験者の話を聞いて「戦争反対」を学ぶことで足りるのか? ボスニア紛争のような内戦においては、加害者と被…

ぼくらの戦争なんだぜ/高橋源一郎

戦争を伝えるとはどういうことなのか、あるいは戦争との向き合い方についての文芸評論。多くの戦争語りがなぜつまらないのか、伝わらないのかについて、一つの納得感のある説明だと思う。 戦争が語られる時、「大きなことば」で語られる「大きな記憶としての…

アメリカーナ/チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

ナイジェリア人の聡明な女性イフェメルは、アメリカに渡り、高等教育を受け、人種問題などを扱うブログが評判となるが、アメリカでの恋人と別れ、帰国する。イフェメルの中学校以来の恋人オビンゼは、アメリカに渡ろうとするも、911でビザが下りなくなり、断…

人生はそれでも続く/読売新聞「あれから」取材班

過去にニュースで取り上げられた22人のその後の人生をたどるノンフィクション。 のぞき見的悪趣味かと躊躇うところもあったが、そうでもなく。 2012年9月から原子力規制委員会委員長も務めた田中俊一さんは、立場故に批判に晒されることも多かったように思う…

アメリカとは何か/渡辺靖

現代米国の政治の分断状況と今後の見通しについての第一人者の分析。 米国は憲法によって成立した市民主体の「自立・分散・協調」を重んじるネットワーク型の統治を試みた「理念の共和国」と称される。 米国におけるリベラルとは、政府による一定の介入こそ…

世界一ポップな国際ニュースの授業/藤原帰一・石田衣良

国際政治関係の時事問題をめぐる対談。2021年1月上梓。図書館に探していた藤原帰一の本がなくて代わりに。肩肘張らない対談。 プーチンは、自分の力の限界を知っていて、一線を越えようとしない。例えば、クリミア併合は行っても、オバマがリトアニア、ポー…

神坐す山の物語/浅田次郎

久しぶりに浅田次郎を読む。奥多摩御嶽神社の神官の屋敷を舞台とする連作短編。子供の目から見た、神様や霊が日常にある暮らしの物語。著者自らの経験がベースにあるようで、昭和のファンタジーといっても、「メトロに乗って」とは違った趣がある。 神坐す山…

異端の時代/森本あんり

正統、異端とは何かを突き詰めつつ、現代のポピュリズム、反知性主義のありようの危うさを示す。 キリスト教などでは宗教の3要素として、正典、教義、職制があるが、それらによって正統が生まれるのではなく、正統はそれに先立って成立している。 正典は、正…

日本の構造/橘木俊詔

日本の国のかたちを50の統計データで確認、解説するもの。データ1ページ、文章3ページを原作として、コンパクトにまとめてあり、全体を俯瞰するのにはこういうスタイルも便利だろう。 ・年間労働時間は、1960年頃から700時間減少、アメリカを150時間下回る1,…

政治学(ヒューマニティーズ)/苅部直

高大接続を意識した政治学(政治哲学)入門とのこと。高校教科書で、国民の政治参加により国民の意思が政治決定となるというすっきりとした構図で説明される政治は、実は肝心の「政治」そのものがすっぽりと抜け落ちている。その「政治」を考察する政治学の入…

5歳からの哲学/ベリーズ&モラグ・ゴート

小さな子供に哲学の手ほどきをすることを目的とする本だというのだが。子供が倫理をはじめさまざまなことを自分の頭で考えるようにガイドしようということはわかるものの、もう一つピンとこない。 14歳からでいいのかもね>池田晶子 5歳からの哲学 考える力を…

ヒロシマを暴いた男/レスリー・ブルーム

広島への原爆投下による被害、その影響を、まだ米国・米軍が隠蔽しようとしていた時に、6人の広島の住民の証言を中心として紹介したピュリツァー賞作家ジョン・ハーシーによるニューヨーカー誌の記事ヒロシマ。人道問題や隠蔽批判など激しい反響をもたらす一…

告白/旗手啓介

1993年カンボジアPKOでの文民警察官の殉死をめぐるドキュメント。NHKスペシャルの取材をもとにまとめたもの。 PKOは、紛争当事国間に停戦合意が成立していることを前提としている、すなわち現地は安全であることを原則(建前)としていることから、要員は、武…

どうせ社会は変えられないなんてだれが言った?/井手英策

所得制限なく教育、医療、介護、子育て、障害者福祉などのベーシックサービスを無償化し、その財源は消費税(16%)とする主張。消費税は定率なので富裕層ほど負担額は多く、受け取れるサービスは一定なので低所得層ほどメリットが大きい。全ての人に安心でき…

おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子

芥川賞受賞作は15年位前まで結構読んでいたが、久し振りに。読む本がなくなってかみさんの本棚から。 頭痛持ち、ストレス耐性がないことから残業をせず、仕事を任せられない芦川さん、その仕事をカバーし、我慢する人とできる人でやらないと仕事は回らないか…

歴史思考/深井龍之介

歴史思考とは、「歴史を通して、自分を取り巻く状況を一歩引いて、客観的に見ること」(メタ認知)であり、これにより、「当たり前」が当たり前ではないことに気づき、目の前の悩みから解放される、という。 このような言説で悩みから解放される人もあるだろう…

ロシア点描/小泉悠

ロシアの生活と政治・権力構造について、自らの実体験をもとにやわらかく語るもの。 ロシア人は「これはルールです」と言われると反発したくなるようなところがある。ロシア人には、このような「容易に統治できない我々」意識とこれと表裏一体の関係にある「…

昭和天皇の戦争/山田朗

著者によると、宮内庁編纂「昭和天皇実録」は、過度に天皇が平和主義者であるとのイメージを残し、戦争・作戦への積極的な関与については、編纂者が一次資料の存在を確認しているにもかかわらず、そのほとんどが消された。これは、資料批判の観点を十分に有…

レナードの朝/オリヴァー・サックス

嗜眠性脳炎の後遺症としてパーキンソン症候群を発症することがある。その特効薬であるドーパミン前駆体L-DOPAの投与についての臨床研究の記録。 同薬の投与は、パーキンソン症候群の症状を目覚ましく軽減、改善するが、その後、舞踏病、チック、過度の興奮、…

この国のかたちを見つめ直す/加藤陽子

加藤陽子による2010年頃から2021年までの時事評論。 記録を残し、検証可能性を高め、歴史に学んで政策判断に過ちなきを期すことの重要性は、特に現下の情勢ではいくら強調しても足りないだろう。歴史学者からみればなおさらだ。 「先の大戦は、自国のみを利…

山奥ビジネス/藻谷ゆかり

地方の活性化を考える本は、藻谷浩介「里山資本主義」をはじめ、小田切徳美「農山村は消滅しない」、枝廣淳子「地元経済を作り直す」など関心を持って結構読んできた。 本書前半でも取り上げられているような優良事例、先進事例は、いずれも勇気づけられるも…

「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた/グレゴリー・J・グバー

「ネコひねり問題」(=ネコをどんな格好から落としても、ちゃんと足で着地するのはなぜか?)って、生理学のことと思ったが、関係科学の広がりは角運動量保存則(知らなかったが、高校物理で習う?)といった基本物理から、最先端物理学、トポロジーなど果てしな…

さらば欲望/佐伯啓思

リベラルなデモクラシー、グローバルな競争原理、個人の基本的人権等の米国を中心とする西洋的価値や世界秩序構想が破綻。社会主義も破綻したことから、隠れていた「精神的な風土」が表出してくる。ロシアは西洋近代から圧倒的影響を受けつつ「ロシア的なも…

踏み出す一歩は小さくていい/河野理恵

ケニアでアパレル関係で起業した著者の成功譚。爽やかな幸福感を共有できる。著者には成功に至る様々な好条件、環境があったと言えようし、幸運に恵まれたという面もあるだろうが、とにかく踏み出すということ自体が凡人にはなかなかできないというところだ…

読んでない本について堂々と語る方法/ピエール・バイヤール

2007年上梓のベストセラー。 本について語ることは、自分自身について語ることだ。だから、読んでいなくても語ることができる。 大事なのは、作品と自分自身の様々な接点であり、作品のタイトル、「共有図書館」(その本を含むある文化の方向を決定づけている…

書かれる手/堀江敏幸

あとがきで、著者は、要旨次のように言う。 私の関心は、本質に触れそうで触れない漸近線への憧憬を失わない書き手に向けられている。問題は、その憧憬に適切な形を与える能力が欠けていることで、出来上がった文章は「評論」にも「エッセイ」にも「解説」に…