HONMEMO

読書備忘録です。

ニッポン美食立国論/柏原光太郎

人口減必至の日本の内需を支える観点からも観光立国が唱えられ、オーバーツーリズムの弊害などから団体客より富裕層をいかに呼び込むかが課題とされている。 本書のいう美食立国は、これを食の観点から進めようというもの。フーディーと言われる美食オタクの…

客観性の落とし穴/村上靖彦

本書の帯やキャッチコピーは、ややミスリーディング。ポイントは一人一人の経験、声から社会を、制度を作っていくことの重要性を説くもの。 科学の進展に伴い、客観性、数値に価値が置かれることにより、人間の序列化が進み、差別、排除の問題を生んでいる。…

出世と恋愛/斎藤美奈子

斎藤美奈子の文芸批評は、切り口/補助線の引き方や見立ての面白さと歯に衣着せぬ語り口で毎度楽しめる。本書でも、まあ上品とは言いかねるけれど、啖呵の切れ味は見事だ。 青春小説(立身出世小説)の王道は「告白できない男たち」、恋愛小説の王道は「死に急…

新しい世界の資源地図/ダニエル・ヤーギン

国際政治の地図は、経済、安全保障などはもとよりだが、(それとも関連して)エネルギーをめぐる情勢からも大きな影響を受けて変化してきた。石油、天然ガス、シェール、原子力などを巡る、米国、ロシア、中国、中東のパワーポリティクス(ゲオポリティクス)の…

一般意志2.0/東浩紀

これも成田悠介「22世紀の民主主義」を読んだ流れで。同書は、「無意識民主主義」によって政治家はネコになるというが、本書は、総記録化により形成される大衆の欲望、無意識=一般意志2.0を可視化し、政治における熟議を制約するシステムを構想する。 具体的…

ギフテッドの光と影/阿部朋美・伊藤和行

日本は平等主義、同調圧力が強く、ダイバーシティについての理解も全く進んでいない。このような土壌の下で公教育においてギフテッドの才能を伸ばす英才教育を行うことは本書も指摘するとおり問題が多いだろう。まずはダイバーシティについての肌感覚を向上…

なめらかな社会とその敵/鈴木健

著者は複雑系科学の研究者。成田悠介「22世紀の民主主義」を読んだ流れで、手に取ってみた。 生物の基本単位である細胞の膜と核の構造は社会制度と地続き(国家と中央集権権力)であるが、その背景にある反応ネットワーク(インターネットなど)によってその膜の…

安倍晋三回顧録/安倍晋三・橋本五郎・屋山宏・北村滋

聞き手が比較的近しい人であることもあってか、率直に気兼ねなく語っている印象がある。御厨貴であれば当然違う切り口の聞き方もあっただろうが、もっと構えた語り口になっていたかもしれない。 結構好き嫌い、思い込みの強い人だったようで、特に財務省嫌い…

「正しい戦争」は本当にあるのか/藤原帰一

再読。本はあらかた処分し、図書館に依存するようになったのだが、本書は書棚に残っていた。 戦争と平和の捉え方には大きく3つある。 悪い奴(ナチ、フセインなど)を倒すことにより平和をつくる。これは正しい戦争。 正義などなく、各国が脅し合って均衡状態…

世界の廃墟島/クラウディア・マーティン

世界中の廃墟となった102の島の写真集。城砦、流刑地、検疫あるいはハンセン病隔離施設などの役割を終えて放置された島、災害や戦争、核実験などにより破壊された島、過疎化により見捨てられた島など。 具体的には、チフスのメアリーが23年隔離されたノース…

サーカスの子/稲泉連

稲泉連は、「ぼくもいくさに征くのだけれど」、「アナザー1964」、「廃炉」と読んできた。 著者は就学前の1年ほど、母とサーカスに暮らした。それは夢と現のあわいの独特の時間として記憶される。本書は、その時に出会った人たちを中心とするサーカスの人々…

保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである/福田和也

20年も前になるだろうか、石原莞爾の評伝「地ひらく」などを興味深く読んだ頃、著者は江藤淳の弟子的な立ち位置で保守文壇の寵児としてエネルギッシュに活躍していた。その後も「昭和天皇」といった大著もあったことを知っているが、久しぶりに見たのが本書…

22世紀の民主主義/成田悠輔

インターネットやSNSの浸透に伴って、分配・包摂の民主主義は劣化、「偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースター」となり、成長・占有の資本主義が加速している。しかも、民主主義国家の経済パフォーマンスは権威主義諸国より悪い。 情報…

JK、インドで常識ぶっ壊される/熊谷はるか

親の転勤に伴い、インドで暮らすことになった女子高校生が考えたこと。 思ったよりずっとしっかりした文章で感心させられる。 潜在的な差別意識や固定観念についての気づき、貧富の差に直面しての罪悪感、貧しい子供達の持つ上向きの力=希望についての気づき…

「低学歴国」ニッポン/日本経済新聞社編

教育の問題をさまざまな角度から取り上げている。 官僚養成機関だった東大から官僚を目指す人が減っている。大沢法学部長は、「学生の公共心は健在。ただ、現在では昔と違い、公共に関わる分野が民間を含む色々な方面に広がっている。進路の選択肢も増えた」…

シュードッグ/フィル・ナイト

NIKE創業者の自伝。凄まじい負けず嫌いと情熱。リスクをものともしないというか、ハッタリを超えて詐欺とも言えそうな行動(実際詐欺罪でFBI沙汰になる)をとったりする。痛快な成功物語だが、一方で、日商岩井の人情が際立ち、こういうリスクの取り方、商売の…

生物学的に、しょうがない!/石川幹人

途中から斜め読み。何でこの本を借りたんだったか? 生物学的に、しょうがない! 作者:石川 幹人 サンマーク出版 Amazon

田中耕太郎/牧原出

東京帝国大学法学部長、文部大臣、参議院文教委員長、最高裁判所長官、国際司法裁判所判事を歴任した田中耕太郎の人物評伝。 田中は、論敵を強烈に批判し、明快に自らの価値に基づく意見を主張しつつ、状況に応じた対応をする。このことによって組織内で反対…

文明交錯/ローラン・ビネ

インカの王アタワルパがヨーロッパを征服するという歴史改変小説。 著者は、「ピサロやコルテスが行ったことを、反転させた世界でどのように行わせるかをゲームを楽しむように考えていった」とあるが、読む方より書く方が楽しそうだ。大航海時代などの歴史エ…

全体主義の克服/マルクス・ガブリエル 中島隆博

日独哲学者の対談。 全体主義は、私的な領域を公的な領域に置き換えていくが、現在の全体主義は、国家ではなくGAFAが公的な領域と私的な領域の境界を破壊している。トランプにせよ、プーチン、習近平にせよ民主的に選出されており、20世紀的定義でいえば中国…

黒い海/伊澤理江

2008年、17人が死亡した漁船の海難事故の原因を追うノンフィクション。 現在原発処理水問題の渦中にある福島県漁連会長の会社の漁船が犬吠埼沖で沈没。その原因は波とされたが、油が大量に流失していたという生存者の証言は運輸安全委員会の報告書と大きく食…

人間の集団について/司馬遼太郎

1973年に新聞連載されたベトナム思索紀行。米軍撤退後サイゴン陥落前の南ベトナム(サイゴン〜メコン)で考えたことを徒然に記したもの(解説の桑原武夫は第一級の思想書と評する)。 親中、親ソ、新米3つの正義(共産主義と自由主義でもいい)の名の下に、機械運…

先生、どうか皆の前でほめないで下さい/金間大介

今の若者の心理・行動特性を名付けると、「いい子症候群」であると。 良くも悪くも目立つことを嫌い、横並び志向が強い。自己肯定感が低く(自信がなく)、自分で決めることができず、指示待ちで、アントレプレナーシップ気質が低く、保守的安定志向(安定した…

それでも、私は憎まない/イゼルディン・アブエライシュ

ガザの難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人の産婦人科医の自伝。 医学は人々の分断に橋をかけることができると信じて、ガザに住み、非人道的検問を通過してイスラエルの病院で診療を行うために往復する。(ガザに設備の整った病院はなく、パレスチナ人も…

東大よりも世界に近い学校/日野田直彦

大阪府立箕面高校の民間校長を皮切りに、中高の校長を務め、その実績が注目されている著者による、自らの経験に基づく教育についての提言。 教育論であるとともに、親交があったという故瀧本哲史氏が憑依したかのような、若い人に向けた生き方啓発の書でもあ…

戦争は女の顔をしていない/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

第二次対戦中ソ連軍やパルチザンに参加した女性たちに対するインタビューをまとめたもの。当時100万人を超える女性が従軍したという。衛生兵、看護師、通信兵といった職種だけでなく、工兵や狙撃兵、戦車部隊まで、また兵だけでなく士官もいるなど、ありとあ…

サガレン/梯久美子

「散るぞ悲しき」は積んであったような気がしたが、この作者結局一冊も読んでいない。 サガレンとは、樺太/サハリンの旧名で宮沢賢治がそう呼んだことにちなむ。日露混住の地から樺太千島交換条約によりロシア領に。その頃、チェーホフが詳細な旅行記をまと…

朝鮮王公族/新城道彦

日韓併合に伴う大韓帝国皇族の処遇は、王の称号などの付与や朝鮮の風習に配慮した国葬の実施など、韓国民の感情をなるべく逆撫でしないようにという日本側の配慮と韓国側の少なくとも何らか名分を取りたいという中で決まっていった。 朝鮮王公族の受け止めは…

本当の戦争の話をしよう/伊勢崎賢治

シエラレオネ、アフガニスタン、東チモール、カシミールなどでの武装解除や停戦監視の現場経験を踏まえての福島高校の生徒との対話。 紛争を解決し、平和を維持するという観点からは、正義や人権も絶対的価値ではなく、相対的なものと捉えざるを得ないのでは…

彼女たちの場合は/江國香織

かみさんの本棚から。江國香織は初めてではないかな、と思ったら、きらきらひかるを読んでいた。 17歳の逸佳は、留学生として14歳の従妹礼那のニューヨークの家から学校に通うが、思い立って礼那と2人西部に向けて旅に出る。家出ではないと置き手紙をして。…